「おやじは疑われていた」 検証・大崎事件(8)

西日本新聞 社会面

 泥酔した被害者を自宅に連れ帰ったという2人の供述は、大崎事件の「土台」。これが崩れれば、自宅の土間に置かれた被害者の四郎さん(仮名)を見た原口アヤ子さん(92)が殺意を抱くところから始まる確定判決の犯行ストーリーは成り立たなくなる。現地取材のリストでは2人をトップに据えた。

 結論から言うと、Iさんは14年前に他界していた。農機具店は息子さん(60)の代になっていた。40年前の、思い出したくもない事件の話を聞きに突然現れた記者は迷惑な存在だろう。敷居は高いと覚悟していたが、事務所に通してもらえた。

 「福岡から? よくここが分かりましたね。ただ、話を聞かせてくれと言われても、私も20歳ぐらいの頃やったからねぇ」。おやじさんは47歳でしたねと言うと「そこまで調べとるですか」と笑顔になった。

 「でも、もう忘れましたよ。真実がどうなのかは、本人のみしか分からんことですから」。「本人とはアヤ子さんか?」と問うと、「ああ」と答えた。

 裁判記録では、1979年10月12日の事件当夜、アヤ子さんは義弟の四郎さんを連れ帰ってくれたことに礼を言おうと近所のIさん宅を訪問。午後10時半ごろ自宅に戻る途中、四郎さん宅に立ち寄り、土間に横たわる姿を見たとされる。

 「事件の日、おやじとアヤ子さんは10時すぎまで、うちで話していたと聞いています。その後に事件が起きたのか、その前にもう事件が起きていたのか。そこは分からんですもんね。私が関わっていたわけじゃないから」と話した。

 意味のある言葉ではないのだろうが、仮に後者であれば、午後9時~10時半ごろまでIさん宅にいたアヤ子さんによる犯行はあり得ないことになる。

 息子さんは当時、父の店とは別の職場に勤め、事件当夜は宿直勤務だったという。「それが不幸中の幸いだったというか、(連れ帰ったのが)親子だと、疑われる部分が強くなると考えましたから」

 「疑われる」-。その一言に耳が反応した。誰が疑われるのかを聞き直した。「結局ほら、1カ月間ぐらいかな、毎日のようにおやじは行きましたもんね、警察に」。事情を聴かれたわけですねと問うと、「事情を聴くというか、犯人扱いだったようですよ」。

 どう質問を切り出すか、この時点でも迷っていた、取材で聞きたい「核心」だった。2018年、再審開始を認めた福岡高裁宮崎支部決定は、大崎事件が「殺人なき死体遺棄事件」だったという「アナザーストーリー」に踏み込み、堆肥に埋めたのはアヤ子さんたち以外の「何者か」と推認していた。

 「犯人扱いというのは本人が生前に言ってました。あれだけ責められると『やりました』と言いたくなるぐらい、しつこいと。だから冤罪(えんざい)は結構ありますよね」。息子さんの口から語られる話は、予想外の方向に転がっていった。

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