聞き書き「一歩も退かんど」(94)終わらぬ志布志事件 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2015年5月、明暗が分かれた志布志事件を巡る二つの国家賠償訴訟。7人中4人の請求が棄却された「たたき割り」国賠訴訟で、原告団長を務める浜野博さんは、気落ちした仲間にこう呼び掛けました。

 「このまま終わっていいはずないだろう」

 一審で115万円の賠償が認められた門松輝海さんを除く6人が、福岡高裁宮崎支部に控訴。もちろん私も毎回、応援に通いました。何せ最初に浜野さんに「訴えい!」と持ちかけたのはこの私ですからね。私と浜野さんは似た境遇の同志です。いずれも起訴はされていませんが、常軌を逸した取り調べをされたから「一歩も退(ひ)かんど」の精神で裁判を起こしたのです。

 判決は16年8月5日、言い渡されました。今度はほぼ完全勝訴。6人全員に60万~115万円、総額595万円の賠償命令が出ました。傍聴席で主文を聞いた私は門松さんと外に飛び出し、「勝訴」の垂れ幕を掲げました。写真ではあいにく顔が隠れていますが…。浜野さんと握手すると、万感胸に迫り、互いに言葉が出ませんでした。

 記者会見で浜野さんは「判決の瞬間、苦しかった地獄のような日々を思い出した。裁判が終わっても警察組織の怖さを忘れることはできません」と語りました。体験したから私にもよく分かります。権力をかさに着た不当捜査ほど、恥ずべき行為はありません。

 これで志布志事件に関わる6訴訟は全て私たちの勝利という結果で終わりました。でも、志布志事件は終わりではありません。

 この聞き書きで布川、足利、氷見(ひみ)、大崎の冤罪(えんざい)事件に触れました。ほかにも私は、八幡で放火殺人として立件された引野口事件、大阪で小6女児が焼死した東住吉事件、高知白バイ衝突死事件など、いろんな冤罪被害者の支援を続けてきました。そのたびに痛感したのが、志布志事件の教訓を早く実践に移さないと、日本から冤罪はなくならないということ。

 刑事訴訟法改正で昨年から取り調べの可視化(録画)が義務化されました。ですが、対象は殺人などの裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件に限られ、事件全体のたった3%です。そこで私は強く訴えます。取り調べの全件、全過程を録画する「全面可視化」を義務付けた上、取り調べへの弁護士の立ち会いも実現すべきだ、と。この二つが実現するまで、志布志事件は終わらないのです。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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