菊池事件判決 「違憲の法廷」なら再審を

西日本新聞 オピニオン面

 「憲法違反」の法廷が下した判決ならば、裁判のやり直しが当然ではないのか。まさに司法全体の正義が問われている。

 ハンセン病患者とされた男性が隔離施設である「特別法廷」で裁かれ、死刑となった菊池事件を巡り、熊本地裁が画期的な判断を示した。

 この事件を検察が再審請求しないのは不当として元患者6人が国家賠償を求めた訴訟の判決で、特別法廷を明確に違憲と断じたのだ。法の下の平等を保障した14条など複数の憲法条項に反すると認定した。

 ハンセン病を理由に設置された特別法廷は、差別と偏見に満ちた「密室の法廷」だった。最高裁は2016年の調査報告書で裁判所法違反だったとしつつも、違憲性については明確には認めていなかった。

 この壁を、今回の判決は乗り越えた。他の特別法廷で行った裁判の違憲性判断に影響を与えるだけでなく、ハンセン病問題で関係者の権利回復を進める上でも大きな意味を持つ。

 その一方で、判決は菊池事件の再審自体は認めなかった。原告は男性の親族などではなく、再審請求権を持たないことを理由に挙げた。再審請求するかどうかの判断にも検察の裁量権を広く認めた。

 判決は図らずも、現在の再審制度の矛盾と限界を浮き彫りにしたと言えるのではないか。

 刑事訴訟法は、無罪を言い渡すべき新証拠が発見された場合などに再審請求を認めている。その要件に、今回のような法廷のあり方に違憲性があるケースを想定していない。

 法廷のあり方が違憲なら、その結論の正当性にも疑義が生じるのは当然のことだ。現行制度の「死角」である。

 違憲性を巡る争いがあっても最高裁までに決着するとの前提なのだろうが、特別法廷の問題が広く社会で認識されるようになったのは、菊池事件の死刑執行から数十年後である。

 また判決は、再審の必要性を否定する理由に違憲判断が事実認定にまで影響しないことを挙げたが、これも疑問が残る。「国民の傍聴を拒否したに等しい」と判決が認定し、裁判公開を定めた憲法に反する法廷の審理に、証拠の過大評価などはないと本当に言い切れるのか。

 男性の親族はハンセン病に対する偏見と差別を恐れるあまり、再審請求に踏み切れなかったという。検察に一定の裁量を認めるにしても、こうした事情に思いを致すことは「公益の代表者」としての職務である。

 今回の判決を受け、検察には菊池事件の再審請求を、司法界全体には再審制度の抜本的な見直しを早急に求めたい。

PR

社説 アクセスランキング

PR

注目のテーマ