「底辺」を救えるのは誰? 米大統領選、揺れる黒人層

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

格差深刻揺れる黒人層

 11月の米大統領選で政権奪還が悲願の野党民主党にとって、主要支持層の黒人からの支援は不可欠だ。混戦が続く候補者指名争いの第4戦の舞台、南部サウスカロライナ州は住民の3割弱を黒人が占め、その動向に注目が集まる。「世界一豊かな国の中で黒人は社会の底辺に居続けている」-。29日の予備選を前に州内を歩くと、根深い不満を抱きつつ格差問題を打開できるリーダーを切望し、それが誰かを見極めようと思い悩む黒人たちがいた。 (サウスカロライナ州・田中伸幸)

 「行け、バーニー(・サンダース)」。民主党候補の討論会があった25日夜、州都コロンビアのバーでテレビ中継を見ながら、序盤戦を快調に滑り出した左派サンダース上院議員に声援を送る有権者の姿があった。

 陣営が主催した観戦イベントの参加者たち。10人ほどいた黒人の一人で、会社員のトーソンさん(44)は「米国は世界一の経済大国なのに医療が受けられず死ぬ国民が大勢いる。日本でそんなことはないだろ?」と興奮気味に語り始めた。

 無党派で、2008年大統領選は黒人のオバマ氏(民主)を支持した。「同じ黒人だからではなく、弱者のための医療保険制度改革を訴えたから」。だが公約実現は難航。トーソンさんは失望し、再選がかかった12年は投票しなかった。

 トランプ大統領(共和)にも共感できない。「好景気だと自慢するが、副業としてタクシー運転手をして何とか生計を立てている黒人の友人が何人もいる」

 好待遇の職を得るため大学に通った際の学生ローン返済は今も続き、大学生の娘も同じ道を歩む。「黒人が経済的に一番底にいる状態は、どの大統領であっても変わらなかった」

 だからこそ、国民皆保険導入や学生ローン免除を掲げ、黒人の生活環境を底上げしてくれそうな民主党の左派候補たちがいる今回に強い期待を隠せない。

 サンダース氏か、同じ左派のウォーレン上院議員か悩んだ末、改革への強い信念を感じるサンダース氏への支持を決めた。「29日に勝てれば(16の選挙が集中する)3月3日のスーパーチューズデーで独走態勢だ」と意気込んだ。

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 ただトーソンさんには、左派候補が指名を獲得できるほど全米で支持が広がる自信があるわけではない。党主流の中道候補は、企業への規制を強めて政府の役割を拡大する左派政策を、米国人が嫌う社会主義や共産主義と絡めて批判し、現実的ではないと攻勢を強めている。

 州中部の大学で26日にあったウォーレン氏の選挙集会では、米国の構造改革を声をからして訴える姿に、多くの黒人学生が立ち上がって拍手を送っていた。

 だが大学4年の女子学生(21)は「改革が本当に実現すれば、黒人などマイノリティーの生活は良くなると思う」と答える半面、「彼女に投票するかは分からない。中道候補の主張と比べないと」と漏らした。

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 州都を拠点に活動する黒人俳優マクラウドさん(56)も態度を決めかねている。「ウォーレン氏も、バイデン前副大統領など中道候補も良いと思うが、短所もあるし…」と苦笑した。

 これまでも、そして今回も、投票時は「黒人社会がどう変わるか」をイメージする。その点、再選を目指すトランプ氏は論外だ。

 3年余りの政権運営で「黒人の失業率は過去最低レベル」などと誇示するが、母が住む住宅街では、不動産価格の上昇で近所の黒人居住者が立ち退かざるを得なくなり、高所得の白人が引っ越してくる事態が相次いでいるという。「貧しい黒人は貧しいままで、黒人の暮らしの悪化がむしろ加速した」と言い切る。

 移民への不寛容政策も含め、弱者を軽視するようなトランプ政権を終わらせたいとの思いは募る一方だ。

 しかし、サウスカロライナは保守地盤で「民主党支持者が誰を選ぼうと、11月にここでトランプ氏に勝てるわけがない」(白人タクシー運転手)と冷めた空気も漂う。「大金持ちのトランプなら私を経済的に幸せにしてくれる」(30代アルバイト男性)と信じる黒人も少なからずいる。

 「それでも、だめなものはだめだと声を上げる」とマクラウドさん。「とはいえ誰がトランプに勝てて、黒人の積年の苦しみにこたえてくれるのか」-。答えが分からないまま、投票日を迎えようとしている。

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