樋口一葉は夏目漱石と親戚になっていたかもしれない…

西日本新聞 オピニオン面

 樋口一葉は夏目漱石と親戚になっていたかもしれない。双方の父親は職場の上司部下の間柄で、漱石の兄と一葉の間に縁談話も出た。けれど進展はせず、漱石の妻は「もらいそこねた」と述懐している

▼5千円札の一葉は「紫式部の再来」と賞されたごとく、理知的な顔立ちである。半面、24歳で早世した生涯を知るだけに、薄幸の影をどこかに重ね見る

▼父の死後、15歳で戸主になり母と妹を支えた。服を縫い、手紙の例文を書いて得るわずかな手間賃。小間物屋を営むも家計は好転せず、質屋通いが続く窮乏生活。「夕はんを終りては後に一粒のたくはへもなし」「何方(いずかた)より金かり出すべき道もなし」と日記に刻んだ

▼著作が絶賛された時は既に胸を侵されていた。病院で医師は妹の邦子に「もう見込みはない」と告げる。待合室にいた一葉は妹の異常に気付く。「邦さん、お前なんだい?」「いいえ姉さん、何か燃やしていて煙が目に入って涙が出て仕様がないのよ」…

▼そんなどん底の中でも一葉は書いている。「優々たる春の光春の匂ひの身にも心にも家のうちにもみち渡りたる」。暖かく差し込む春の陽光に、貧しくとも一家だんらんの幸せを感じたのだろう

▼現下、ウイルス騒動の渦中にある。背は丸まり気持ちも沈みがちだ。でも柔らかい日差しが心を和ませる季節でもある。厳しい状況でも春の訪れに元気づけられる、そんな3月となるように。

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