森里海を結ぶ植樹祭 藤崎真二

西日本新聞 オピニオン面 藤崎 真二

 プログラムされた命令は誰にも解除できない。つまずこうが、手足を失おうが、しぶとく起き上がる。まるで映画のターミネーターのように。

 何のことかというと、どうにも止まらない公共事業の「構想」である。日本伝統文化に詳しい米国出身の研究者アレックス・カー氏が著書「犬と鬼」(講談社)の中で例えている。顕著な例として挙げたのが国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)だ。

 多様な生命を育む大干潟があった諫早湾に「長崎大干拓構想」が浮上したのは戦後7年目の1952年。64年にいったん事業が認められたが、国の減反政策などもあり、70年に上水道活用などを盛り込んだ総合開発に衣替え。その後、農業者が減り、地元漁民の反対が高まると、82年に高潮や洪水などへの防災重視の干拓事業として復活し、89年に着工した。湾を閉め切る潮受け堤防は約7キロに及ぶ。

 総事業費約2530億円。費用対効果は、長崎大名誉教授(財政学)の宮入興一さんによると投資に見合う「1」を大きく下回る0・19。「効果を過大評価せず、費用を過小に見積もることなく、漁業被害などを算入して計算した」結果という。ちなみに農林水産省が2006年に実施した事業再評価でさえ0・81。その挙げ句、住民を分断し、地域社会を混迷に陥れてしまった経緯はご存じの通りだ。

 宮入さんの論文は書籍「いのち輝く有明海を」(花乱社)に、他の15編と共に収められている。ある漁民は「宝の海」から「瀕死(ひんし)の海」となった経過を報告。科学的知見による解析もあれば、裁判や世論形成の分析、再生への展望などもあり、専門家が諫干問題の理解を助けてくれる。

 編者の京都大名誉教授、田中克(まさる)さんは「これまでの不毛な対立、わだかまりを解きほぐすには、自然と共に生きる意味を考え直す必要がある」と力を込める。

 古来、海岸に近い森林が魚を寄せることを知る漁師たちは「魚(うお)つき林(りん)」と呼んでこれを守ってきた。海の恵みは川を通じ運ばれる山林の滋養が支えているわけだ。田中さんはこれを解き明かす「森里海(もりさとうみ)連環学」を提唱する。

 その上で、諫干問題の解決に向け、多様な分野や世代の人々をつなぐ植樹祭の開催を思い付いた。第1回「森里海を結ぶ植樹祭」を20日、諫早湾に流れ込む川の源流、多良岳中腹の山茶花(さざんか)高原で開く。まずはクヌギ500本を植える予定だ。自然の営みに寄り添う息の長い活動を目指す。

 無料。主催は森里海を結ぶ会=0957(34)2525=など。 (論説委員)

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