九州は自治体ごとに異なる津波対策が必要 東日本大震災の教訓

西日本新聞 くらし面

新局面 災害の時代―後悔しない備え❾

 東日本大震災のちょうど1年前。2010年4月、国際津波フィールドシンポジウムが東北大で開かれた後、世界最先端と評された東北の津波防災体制の現地調査旅行が催されました。

 津波早期警戒警報システム、10メートル超の防潮堤、湾口防波堤、遠隔操作で開閉する水門、津波避難ビルなどが整備された三陸沿岸を、私も各国の津波専門家とバスや船で見て回りました。

 仙台平野に残る貞観津波(869年)の堆積物を含む地層の抜き取り作業の現場では、東北大の地質学者がうまく採取できずにやり直す中、一行は、まだ雪のちらつく田んぼの真ん中で記念写真を撮り合うなど、のんきに作業を見守っていました。

 アメリカ地質調査所をはじめ、世界トップクラスの地質学者ら参加者の誰もが、1年もせずに一帯がマグニチュード(M)9の地震・津波災害に襲われるとは思ってもいなかったのです。さらにM8で想定した防災インフラで津波は防げると油断したからです。

 というのも、著名な米国の地震学者が1970年代に出した「東北ではM8級までの地震しか起きない」という学説を日本の専門家は信じ、著名学者がスマトラの巨大津波を受けて2006年、「世界のどこででもM9級の津波は起こり得る」と、自説の最大想定を「変更」していたことに気づいていなかったのです。

 東日本大震災の2日後、当時私が勤務していた東京大地震研究所で反省会のような会合がありました。06年の著名学者による論文の共著者だった京都大出身の地震学者が「最大想定を既に『変更』した自分たちの論文を、みんな知らないの?」と私の隣で発言したのです。気づいていなかった地震学者は、ただ消沈するばかりでした。

 M9級を想定した南海トラフ巨大地震では、宮崎市で九州最大の波高17メートルが予想されています。大分と宮崎の県境のリアス海岸は、波高が37・8メートルに達した東北の地形にそっくりです。科学者は、もっと高くなるのではないかと現地調査を続けています。

 別府湾沖を震源とする地震で近地津波が起きれば、最短約3分で陸地に到達すると考えられています。沿岸では高い場所にいない限り、地震の揺れの開始と同時に逃げなければ助かる見込みはまずありません。

 雲仙に近い長崎の島原や熊本、桜島などがある鹿児島では火山性津波の恐れもあります。

 福岡や佐賀の人にも、1026年に島根沖を震源に起きたと伝わる万寿地震・津波のことを知ってほしいです。記録が少ない日本海側も油断はできないのです。九州は、自治体ごとに異なるタイプの津波対策が必要です。(九州大助教 杉本めぐみ)

 ◆備えのポイント 東日本大震災の津波の最大波高は、リアス海岸の丘を駆け上るように襲った遡上型(ランナップ型)でした。平地やくぼ地をのみ込んだ浸水型とは別です。

 ◆すぎもと・めぐみ 京都府出身。京都大大学院修了。東京大地震研究所特任研究員などを経て2014年から九州大助教。専門は防災教育、災害リスクマネジメント。編著に「九州の防災 熊本地震からあなたの身の守り方を学ぶ」

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