障害者にICT活用、支援者の心構えは 「一緒に楽しむ経験を共有」

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 iPad(アイパッド)などのタブレット端末や入力装置、情報通信技術(ICT)を使えば、重い障害があっても、さまざまなコミュニケーションが可能となる。元特別支援学校教諭で、こうした支援に詳しいNPO法人「地域ケアさぽーと研究所」(東京都)理事の下川和洋さん(54)が、福岡県久留米市で講演した。教育や福祉の現場でも活用が広がるなか、支援者が心掛けるべきこととは。

 2月、同市の久留米大御井キャンパス。講演会は、特別支援学校の教員や看護師らでつくる「福岡の医療と教育を考える会」が主催した。参加した福祉や医療、教育関係者の手元には、下川さんが自前で用意したiPadがずらりと並ぶ。

 「大事なのは、ICT機器を使って一人で遊んでもらうのではなく、周りの誰かと、一緒に楽しむ経験を共有してもらうこと」。下川さんはそう力を込めた。

直接触れなくても

 画面を触ると音や声が出たり、絵が描けたり、五十音の文字盤で言葉を伝えることができたり…。下川さんはまず、タブレット端末に入ったさまざまな知育、コミュニケーション支援のアプリを紹介した。

 文部科学省は近年、特別支援学校も含めてICTを活用した教育を推進。福岡県内でも、こうしたタブレット端末などが使えるよう、無線LANなどの環境整備が進む。

 手足が不自由なために画面に直接、触ることが難しくても「わずかな力で押せるスイッチや反応するセンサーがあり、有線で端末につなげば使える」と下川さん。最近は、画面上を見つめるだけで操作が可能な視線入力装置も知られる。高価なものが多い半面、スイッチ類は「市販のキットなどで工夫すれば、数千円で自作も可能」という。

気持ちを見える化

 下川さんは、脳波を感知して動く玩具も披露。例えば「necomimi」(ネコ耳)は、額と耳に貼り付けたセンサーが脳波を読み取り、何かに集中すると寝ていた耳がピンと立つ仕組みだ。実際に参加者が装着し、会場を沸かせた。

 意思が伝わらないことが続けば、コミュニケーションを諦める障害者も少なくない。ICTの進化により、自身の心や体の動きで装置や玩具を制御できる。「こうした体験を繰り返し、因果関係を理解することによって、周りに気持ちを発信し、コミュニケーションしたいという意欲が高まる」と下川さんは指摘する。

 周囲にとっても、本人の意思や気持ちが客観的に「見える化」されることになる。「この子は分かっていると思うからこそ、関わりがぞんざいにならず、もっと力になりたいと励みになる」と、親や支援者側への効果も強調した。

 学校現場では従来もさまざまなスイッチ類や機器が配備されてきた半面、活用するノウハウがうまく共有されず、使われないまま放置される例も。たとえ学校でコミュニケーション機器に慣れ親しんでも、特別支援学校を卒業し、通所施設に通う段階で、その活用が引き継がれられないという課題もある。下川さんは「障害があっても、健やかに地域で豊かに暮らしていくための準備だ」と述べ、切れ目のない支援を訴えた。

使う機会つくって

 講演会には、日常的にICT機器を活用している2組の親子が登壇した。

 電動車いすに乗り、人工呼吸器を使う地元の田中大貴さん(24)はiPhone(アイフォーン)やパソコンをスイッチで操作し、文字を打ってコミュニケーション。iPhoneなどの音は、口と鼻の間に取り付けたスピーカーの振動で聞き取っている。母の千尋さん(60)は「地元の小学校に通い、友だちからひらがなを習い、覚えたことが今につながっている。12年以上たった今も交流があり、お互いに刺激し合っている」と思い出を語った。

 「コミュニケーションの手段も必要だが、それ以上に、伝えたい、という気持ちをどう持続させるか、その場面、体験、環境を周りの大人が作っていく必要がある」と下川さん。

 支援者側の「意識のバリアー」にとどまらず、健常者との間の「壁」もなくしていける-。その前提となる「ともに学び、ともに生きる」機会を、社会全体で構築することが、やはり急がれるだろう。 (編集委員・三宅大介)

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