膨大な量の汚染水、林立するタンク 処理は2年後に限界…福島第1原発 (2ページ目)

「また風評」恐れる漁業者

 間近に立つと、巨大な壁に行く手を阻まれるような錯覚に陥る。東京電力福島第1原発の構内には、高さ、直径とも約12メートルの金属製タンク約千基が所狭しと並んでいる。

 汚染水は雨水や地下水が原子炉建屋に流入し、事故で溶け落ちた核燃料などに触れて発生する。構内の多核種除去設備(ALPS)で浄化して「処理水」とするが、放射性物質トリチウムは除去できず残る。

 処理水をためるタンク1基の容量は、千~1300トン。処理水は1日で平均約170トン増えるため7~10日で満杯になる。

 この日も、クレーンでタンクの増設作業が進んでいた。東電によると、設置できるタンクの容量は計137万トン分だが、既に処理水約120万トンを貯蔵。2022年夏ごろには、新たに発生する処理水の行き場がなくなる計算だ。

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 増え続ける処理水を巡り、経済産業省の有識者委員会は2月、希釈して海に流す海洋放出と大気に蒸発させる水蒸気放出の2案を提言した。拡散予測の観点から「海洋放出の方が確実」とも指摘した。

 原子力規制委員会も、法令基準より薄めて海洋放出するよう求めている。規制委の初代委員長を17年まで務め、福島県飯舘村の自宅で取材に応じた田中俊一氏は「海洋放出しかない。もう時間がない」と語気を強める。

 「トリチウム水は、震災前からほかの国内外の原発で海洋放出している。安全上の問題はない」。田中氏はこう強調した上で「海洋放出の準備に最低でも2年はかかる」と指摘。処分が間に合わずにタンク容量が限界を迎えてしまう事態への懸念を示した。

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 海洋放出で懸念されるのが新たな風評被害だ。「海洋放出されたら、9年かけて積み上げてきたものがいっぺんになくなるべ」。福島県いわき市漁業協同組合の江川章組合長(73)は眉をひそめる。

 原発事故後、県内の沿岸漁業者や底引き網漁業者は操業自粛を余儀なくされた。県漁連によると、放射能モニタリングなどに取り組んでいるが、県内の水揚げ量は原発事故前(10年)の約15%どまり。輸入規制を解除する国は増え、ピーク時に44魚種だった魚介類の出荷制限も2月25日に全て解除された。それでも、県産魚を購入しない業者がいるのが実情だ。

 漁業者の多くが海洋放出に不安を抱える中、梶山弘志経産相は「関係者の意見を丁寧に聞く。結論ありきではない」と慎重な姿勢。専門家からは「政府が最初から漁業者にしっかりと向き合わず、問題がこじれた」(田中氏)といった批判も上がる。

 「状況はコントロールされている」。安倍晋三首相が汚染水についてこう言明した国際オリンピック委員会(IOC)総会から6年半。招致に成功した東京五輪が目前に迫っても、処理水の行方は定まっていない。

(吉田修平、森井徹)

 

【トリチウム】水素の仲間で「三重水素」とも呼ばれる放射性物質。自然界でも放射線の一種である宇宙線の影響で発生、大気中の水蒸気や海水などに微量に存在する。皮膚に付いても外部被ばくの心配はなく、低濃度なら飲んでも排出されやすいとされる。トリチウムを含んだ水は通常の原発運転でも発生する。既存の技術で取り除くことが困難なため、国内外の原発では希釈して放出されてきた。炉心溶融事故を起こした福島第1原発の処理水は、他の原発のトリチウム水と同列に扱ってはいけないという意見もある。

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