親の性的虐待、家庭の崩壊恐れ…相談にためらいも 周りの大人にできることは

西日本新聞 くらし面 国崎 万智

 「家庭内性暴力」である親から子への性的虐待は、家庭という閉ざされた空間であることに加え、生活を頼る相手という関係性から、より実態が見えにくい。子どもたちを守るために何ができるのか。

 性的虐待とは、子どもへの性的行為、性行為を見せる、性器を触る・触らせる、裸の写真を撮影するなどの行為。厚生労働省によると、2018年度に全国の児童相談所で対応した性的虐待は1730件で、児童虐待防止法が施行された翌年の01年度から倍増した。一方、米国では性的虐待が全虐待の1割に上る調査結果もあり、1%にとどまる日本では被害が見過ごされているとの指摘もある。

 NPO法人「ふくおか・こどもの虐待防止センター」事務局長の松浦恭子弁護士は「養育者との力関係から抵抗を諦めたり、被害を知られると家族が崩壊すると考えたりして訴えをためらう子もいる」とし、本人の被害申告と第三者の早期発見の難しさを指摘する。

 歳月を経てなお体験が想起され苦しむ場合もある。最高裁は15年、北海道の40代女性が、子どもの頃に親族から受けた性的虐待が原因で06年にうつ病を発症したと認定。親族に慰謝料などの支払いを命じた。今回のAさんも「泣いてもいいんだよと言ってもらえ、安心できる場所をずっと求めていた」と振り返る。

 周りの大人にできることは何か。福岡市子ども家庭支援センター長の河浦龍生さん(68)は「子どものサインを見逃さないこと」と強調する。吐き気や腹痛など身体症状▽家に帰りたがらない▽性非行や万引を繰り返す▽感情を抑制できない-といった体調や行動の変化だ。「安全基地を作れるのは、児相職員や教員など支援職だけではない。子どもが話せる『社会的親』を増やすことが、被害を最小限にする鍵だ」と断言する。

 「子どもの虐待防止センター」理事で、小児精神科医の奥山真紀子さんは、子どもへの暴力防止の予防教育「CAPプログラム」が提唱する「安心、自信、自由を侵されない権利」に触れ「三つの権利が自分にあることと、それらが侵される暴力の具体例を学ぶ権利教育を学校で徹底すべきだ」と語る。同センターは虐待を受けている子や育児が不安な親などから電話相談を受け付けている。

■加害者には「子どもは思い通りになる」という錯覚がある

 虐待の被害者、加害者の心理に詳しい神奈川大心理相談センター所長の杉山崇教授(臨床心理学)に聞いた。

 被害者は苦痛や恐怖に逆らえない体験を繰り返すと、何とかしようという気力を失い、虐待行為が終わるのを待つようになる。名古屋地裁岡崎支部の判決は、こうした「学習性無力感」が考慮されていないのではないか。精神状態を保つために長期間、記憶にブロックをかけ、Aさんのように何かの拍子に思い出すこともよく起こる。

 加害者心理に目を向けると、特徴の一つとして、家庭内の閉鎖的な環境で「子どもは養育している自分の思い通りになる」という錯覚がある。認識のゆがみは他者との関わりの中で気付ける。性衝動を抑えられないという心理的問題もあり、課題を共有できるコミュニティーがあれば、再犯防止の効果を期待できる。 (国崎万智)

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