平野啓一郎 「本心」 連載第178回 第八章 新しい友達

西日本新聞 文化面

「そういうことですか。……Wi-Fiみたいと思いました。」

「それもかけてるんじゃない? 知ってるって言うか、わたし、大ファンだから! 安いアバターなら、わたしも一つ持ってるよ。――あー、あの猫よ、最初に会った時の。」

「そうなんですか?」

「そう。本当に欲しいのは、高すぎて、全然手が出ないけど。朔也(さくや)君もついに、もっといいアバター欲しくなった?」

 三好の顔は、得意な話題に明るくなった。

「そんなに有名なんですか?」

「っていうか、知らないの、朔也君? そっちの方がビックリなんだけど。」

「知りませんでした。どうして、イフィーさんの作るアバターは、そんなに人気があるんですか?」

「いいからよ!」

 三好は即答して、白い歯を見せて笑った。

「もうブランドだし、……新作とか、やっぱり注目されるから。何か、人を惹(ひ)きつける魅力があるのよ。身につけてると、ネットの中でモテるし。」

「そうですか。」

「アバター・デザイナーってたくさんいるし、ファッション・ブランドとかも、最近は、コレクションと同じ服のアバター、売ったりしてるけど、イフィーのは別格よね。仮想現実の中にいても、すぐにわかるもん。現実からの解放感があるし。」

 僕は、相槌(あいづち)を打ちながら、しばらくその続きを聞いていたが、料理が来てから、メロンの一件に始まり、その動画が評判になって、多額の“投げ銭”が入金され――それはまだ続いていた――、<あの時、もし跳べたなら>から、二百万円もの大金が振り込まれた話をした。

 三好はぽかんとした様子で、

「え、……なんか、全然わからないんだけど。……本当に? イフィーが朔也君のこと、知ってるの?」

 と、驚くというより、半信半疑で話を整理しようとしていた。

 僕はケータイで、イフィーが、僕を「ヒーロー!」と呼んでいる動画の投稿を見せた。

 三好は、「えー、……あ、ほんとだ、朔也君。……」と画面に見入った。

平野氏のメッセージ

私たちの生を、さながら肯定する思想を考え続けています。主人公は、愛する母親を亡くしたあと、仮想現実によって再現された母親と生活することになります。その過程で見えてくる母の本心と、自分の心の変化が主題です。乞うご期待!

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)プロフィール

 1975年、愛知県蒲郡市生まれ、北九州市育ち。東京都在住。京都大在学中の99年、デビュー作「日蝕」で芥川賞。「ある男」(読売文学賞)など。「マチネの終わりに」(渡辺淳一文学賞)は福山雅治さん、石田ゆり子さん共演で映画化された。

マチネの終わりにの公式サイト

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