宿命の舞台、亡き兄と共に 劇団四季「ノートルダムの鐘」芝清道さん

西日本新聞 山上 武雄

 2月17日に福岡市のキャナルシティ劇場で開幕した劇団四季のミュージカル「ノートルダムの鐘」(西日本新聞社など主催)。15世紀末のパリを舞台にしたフランスの文豪ビクトル・ユゴーの作品を下地にディズニーが制作。人間の心の醜さ、美しさを問う重厚な物語です。聖職者フロロー役の一人、芝清道さんは福岡県久留米市出身。新型コロナウイルスの影響で現在、公演中止ですが、作品への思いや縁を語ってくれました。

 -新型コロナウイルスの影響で公演中止となったが、九州初公開の手応えは。

 ★芝 これまでの作品と全然違うから、どう受け止められるかと考えていた。だが、心に、魂に響く作品。たくさんの拍手をもらってそれが杞憂(きゆう)だと分かった。福岡の人は心が熱い。皆さんと感動を共有することができました。

 -作品や自身のフロロー役が訴えていることは。

 ★芝 何百年もたった現代でも変わらない差別問題がある。そして愛憎、心の闇…。人間とは何かを問われる。ただ絶望の中にも光も見いだせる作品。観客の皆さんが主人公のカジモドや踊り子のエスメラルダに感情移入したりできるのでは。フロローは偏愛するエスメラルダに対し脅迫もするが、やさしく猫なで声で「違うんだ、俺のことも分かってくれ」とすり寄る。俗悪で、エスメラルダを手に入れるためには何でもする。人間という動物をむき出しにしている。でも根っからの悪ではない。若くして両親に死に別れ、貧しいながらも聖職者となり、死んだ弟の子ども、カジモドを養ってきたのもフロローです。やがて悪に落ちていきますが。勧善懲悪の作品ではない。人間は矛盾の塊で複雑怪奇。それが面白いのです。

 -1985年に入団。きっかけはお兄さんの影響?

 ★芝 三つ上の大学生だった兄が、交通事故で亡くなりました。玉川大のサークルで英語劇をしていました。当時僕は大学入試直前。国立大を目指し、共通一次試験を受けるつもりでしたが、急きょ進路を変更して玉川大に入学しました。友達の中では兄貴分のような存在で、おとこ気があふれる兄を尊敬していました。

 -この作品にお兄さんとの縁もあるとか。

 ★芝 乱痴気祭りのある1月6日、主人公のカジモドが大聖堂から下りて町に繰り出す-。そこから物語が動きだします。ぞくっとしましたね。1月6日は兄の命日でしたから。もしかしてこれをやるために僕は劇団四季に入ったのではないかと感じました。

 兄が亡くなる数日前の正月のことでした。帰郷した兄と太宰府天満宮(福岡)でお参りをしました。その道すがら、兄は四季の舞台に立ちたいとうれしそうに話していたのを思い出します。その夢を絶たれた兄のためにも僕は劇団に入った。必死で35年間ここまでやってきた。兄弟で一緒に舞台に立っているつもりです。ですから、兄貴は死んでいない。生きているのです。

 作品の舞台前方の床にAnankē(アナンケ)と刻まれています。ノートルダム大聖堂の床に記されていたのをこの作品の下地をつくったユゴーが見つけ、小説の発想を得たと聞きます。ギリシャ語の「運命、宿命」という意味。僕にとってこの作品は宿命です。

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