答辞で涙…86歳の高校生、人生初の卒業式 「まだまだ学び続ける」

西日本新聞 ふくおか版 田中 早紀

 全国広域通信制の明蓬館高(福岡県川崎町)で8日、卒業式があり、同町の井上継信さん(86)が人生初の卒業式に臨んだ。「心から厚く、厚く、御礼申し上げます」。卒業生を代表して答辞を涙ながらに読み上げ、教員や家族への感謝を述べた。2年間通った学び舎を後にし、「勉強することがただただ、楽しく、うれしかった」と振り返った。

 井上さんが小学校を卒業したのは戦後の混乱期で、式があったか記憶にない。中学は、長男として家族の生活費と弟たちの学費を稼ぐため通わなくなり、農事講習所を経て地元の魚市場に就職。働きながらも学ぼうと29歳から5年間、福岡市内の高校の通信制課程を受講したが、仕事の都合で卒業できなかった。

 妻チカエさん(87)とともに2人の子を育て、5人の孫にも恵まれた。退職後は書道や農業に精を出したが、どこかで勉強したいと考えていた。転機は敬老会。明蓬館高の生徒たちが披露した和太鼓演奏に感銘を受け、2018年4月、84歳で入学した。

 同校の授業は自宅や校舎で「インターネット授業」を視聴し、テストを受けたり感想を書き込んだりして単位を取得していく。ネットに不慣れで、一つ一つの動作を孫より年下の教員らに確かめながら進めた。

 最も苦労したのは、なじみのなかった英語。授業とは別に、教員からもらった、アルファベットや英単語を書き取るプリントを何枚もコピーして練習したり、問題集の内容をノートに書き写したりした。

 20代末~30代前半の通信制課程の単位が活用でき、通常より1年早い2年間で卒業が決まった。

 この日の卒業式は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、来賓祝辞をやめ、例年より時間を短縮して実施。井上さんは制服姿で式に臨んだ後は、笑顔でチカエさんと長女、卒業生らと写真撮影をした。

 小賀友子副校長は「誠実で謙虚な態度は、生徒だけでなく教員にもいい影響を与えてくれた」と感謝した。井上さんは「卒業できたのは皆さんのおかげ。まだまだ学び続ける」と強調。次の目標に「家にある昭和文学全集を読むこと」を掲げた。 (田中早紀)

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