ムラおこし魂永遠に 山浦修

西日本新聞 オピニオン面 山浦 修

 「2月28日で86歳になりました」。テレビ番組で見掛けた師匠にメールを送ったら、時間を置かずに返答が届いた。スマートフォンを手早く操るとは、さすが“万年青年”だ。

 勝手に呼ばせてもらっている師匠とは、大分県由布院盆地に住む中谷健太郎さん。旅館業を営みながら、商工会長などを歴任。というより、「盆地や温泉の名称である「由布院」や「湯布院町」(現在は合併して由布市)を全国区にした地域づくりの先駆者。旅館業仲間の溝口薫平さん(86)らと仕掛けた辻(つじ)馬車、牛喰(く)い絶叫大会、映画祭は、平松守彦前大分県知事が提唱した一村一品運動と連動して、1980年代に本格化したムラおこしの傑作として輝く。

 その中谷師匠が、「由布院の百年」の編集に乗り出している。これまでの50年に盆地で繰り広げられた出来事や、往来した人々の軌跡を検証し、50年先の地域への道しるべを探ろうという試みだ。

 旅人も住民も穏やかに過ごす「滞在型温泉保養地」を目標に見定めた半世紀前。「この町に子どもは残るか」が起点の一つになった。今回の取り組みには「孫やひ孫たちはどうなるか」という思いが透ける。地域づくり先進地とはいえ、不透明さが増す時代にさらされる次世代のことが、先頭ランナー経験者には気掛かりなのだろう。

 別の師匠(こちらも勝手に呼んでいる)も、地域で格闘している。「宇佐のひょうたん屋」こと同県宇佐市の溝口栄治さん。過日、「わたしの人生 ひょうたんや」と題した自伝を出版し、安倍晋三首相が掲げる地方創生について、「住民サイドの動きがあるのだろうか」と警鐘を鳴らした。「地域は自立を目指さなきゃね」。77歳にして、コミュニティーハウスづくりに燃える日々だ。

 伝統産業を継いだ溝口師匠は、技術革新や販路拡大を進める一方、地域づくりグループの新邪馬台国建設公団に参画。宇佐神宮でミニ独立国サミットを開催するなどムラおこしに取り組み、全国を奔走した。「雷おこし」で有名な東京・浅草から相談されたという逸話が楽しい。

 地域づくりは、熱い心で先導する「ばか者」、実動部隊の「若者」、外部の知恵を注ぐ「よそ者」の3者が必須とされるが、高齢者の地域参加が叫ばれる時代。経験豊かな「シルバー」も加えたい。

 中谷師匠のメールには後段がある。「脚はモタモタ、口達者、記憶は遥(はる)か、ただ茫洋(ぼうよう)…」。溝口師匠も大病を乗り越えたばかり。されどムラおこし魂は永遠に脈打っているのだろう。 (特別論説委員)

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