誰もが無縁ではいられない「ストーカー心理」を生々しく描く衝撃のミステリー

西日本新聞

 近年、ますますニュースで目にする機会の増えたストーカー犯罪を、ミステリーの名手、五十嵐貴久が描いた長編小説。当然、面白くないわけはない。とはいえ、単に「面白い」とか、「ハラハラドキドキ」といった言葉だけでは済まない、重く複雑な感情が胸に残る作品である。

 主人公の白井有梨は、東京・品川の警察署に設けられたストーカー犯罪対策室(略称SCS)に所属する29歳の刑事。日々、ストーカー被害者の相談に応じ、捜査がはじまると抜群のひらめきと果敢な行動力をみせる。だが実は彼女自身もストーカー被害者の一人なのである。朝起きると「おはよう」、仕事を終えると「お疲れさま」、さらに捜査に行き詰っていると解決のヒントを示すようなメールが謎の人物から届くのだ。その数、一日7、8通。確実に誰かに行動を監視されている。

 以前なら一日中他人を監視するためには、それこそ刑事のように尾行したり家に張り付いたりする必要があった。しかし、これだけスマートフォンやパソコンが普及した現在、その手段は格段に容易になっている。

 ストーカー=自分に恋愛感情を抱いている人間とも限らない。本作には趣向の異なる9つの事件が描かれており、あらゆる人間関係がストーカー行為の原因になりうることが明らかにされる。ある男性会社員は、会社に1分でも遅刻すると「いい身分だな」というメモがデスクに置かれる。世間では超高級と羨まれている老人ホームでも、一人若い入居者が加わるだけで諍(いさか)いが勃発する。

 そして、先に挙げたスマホやSNSなどの情報環境が、些細な妄想や執着心をいとも簡単に増幅させてしまうのだ。いま自分が密かに抱いている好意や嫉妬だって、いつふとしたきっかけでモンスター化しないとも限らない。本作の読後感が重く複雑なのは、誰もが被害者だけでなく加害者になっても不思議ではないという事実なのかもしれない。

 

出版社:光文社
書名:SCS ストーカー犯罪対策室(上)(下)
著者名:五十嵐貴久
定価(税込):792(上下とも)円
税別価格円:720(上下とも)円
リンク先(上):https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334779597
    (下):https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334779603

西日本新聞 読書案内編集部

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