あの映画その後

見えにくくなった福島の傷は人の心の中にある 土井監督は問い続ける

西日本新聞 吉田 昭一郎

あの映画その後 震災原発事故10年目へ~「福島は語る」(下)

 今、福島は避難指示解除が相次ぎ、高速道や鉄道が全通する。水素製造施設やロボット開発拠点づくりが進み、国は復興をアピールする。だが、人々はどうなのか。福島第1原発事故の被害者たち14人のインタビュー記録映画「福島は語る」の土井敏邦監督(67)=佐賀県小城市出身=は「被災者の今、福島の今を表面だけ見て(復興したと)早合点してはいけない。見えにくくなった福島の傷は人の心の中にある」と言う。

 「福島の今を本気で探るんだったら、その人たちの絞り出すようなね、ほんとに鬱積(うっせき)した思いを丁寧に聞いていくしかない、と僕は思いますよ。あの人たちの声に出せない声に耳を傾けなくてはならん、と。10万、20万の人たちが人生を狂わされているんですよ。そのことに、僕らはもう少し向き合わないといけない。自分があの人だったら、という想像力を日本人は持たないといけない」

 土井監督は2月7日、横浜市の自宅で、こちらの取材姿勢を問い掛けるように言葉を継いだ。

 「僕らジャーナリストは、痛みを持った人たちへの想像力を、日本社会に喚起していかなければならないと思うんですよ。あの人たちの痛みを伝えていく。その痛みを想像させていく」

 「福島は語る」は被災者の心に迫る労作だ。

 2014年4月から被災者を訪ね歩いた。100人近くに会い編集したが、納得できなかった。原発事故のことは聞けていても人々の痛みが十分引き出せていない。

 チェルノブイリ原発事故の被災者の生々しい語りが続く、スベトラーナ・アレクシエービッチのノーベル文学賞受賞作「チェルノブイリの祈り」を読んで、刺激を受けた。自身の取材のあり方を考えた。

 取材を重ねて2年半。「ああ、これで映画にできる」と感じたのが、避難生活中に体調を崩し亡くなった後継者の次男を語る杉下初男さん(70)のインタビューだった。

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