自白と矛盾、20年前指摘 検証・大崎事件(18)

西日本新聞 社会面

 医学的な知見に基づき、遺体から死因や死亡時期などを分析する法医学鑑定。大崎事件で他殺か事故死かが争点になる中、「事故死の可能性」を認めた福岡高裁宮崎支部決定(2018年)が根拠にしたのは、東京医科大の吉田謙一教授による鑑定だった。

 一方、既に20年前、事故死の可能性を指摘した鑑定人がいた。九州大の池田典昭教授(63)。遺体解剖時の写真や所見などを基に「遺体には頸部(けいぶ)圧迫を示す所見は全くない」と鑑定。よって「タオルによる絞殺とする確定判決は法医学的に認めがたい」と結論付けた。当然、遺体の状況は「タオルによる絞殺」という自白内容とも矛盾する-。これらを新証拠と認め鹿児島地裁は02年、最初の再審開始決定を出していた。

 池田教授を訪ねた。2500体を超える解剖経験を持つ、日本法医学会の前理事長。「解剖写真から索条痕、つまり首を絞めた痕跡なしと判断した。だから、首絞めによる窒息ではないと言っただけです」と振り返った。索条痕とは、首の陥没や皮下出血、表皮の離脱を指す。

 被害者は事件当日、自転車ごと側溝に転落する事故に遭ったとみられた。池田教授は00年の証人尋問で「転落事故で頸椎(けいつい)に損傷を負ったことによる事故死の可能性」を認めていた。

 根拠を尋ねた。「頸椎前面に出血があるから、頸椎の損傷は間違いない。ただし、それが死因だと断定はできない。当時の解剖医が頸部を切開し(頸椎の)何番目が折れているかを確認していないからです」

 難しい話になってきた。図書館でも調べた。頸椎は、脊椎(背骨)上部の首の骨で1番から7番まである。ここを損傷すれば、手足のしびれやまひ、意識や呼吸の障害、心停止などが起こり、脳に近い部位ほど症状が重くなる。1、2番の損傷なら即死にもなり得る。つまり、頸椎前面に出血があるから頸椎損傷は明白だが、肝心の損傷部位が不明なため損傷で死に至ったか否かは不明である、と池田教授は判断していた。

 では、頸椎損傷を悪化させる条件はなかったのか。側溝転落は1979年10月12日。気象データでは事故後、路上に倒れていた午後6~9時の現地の気温は18度から14・3度まで低下する。被害者のシャツは水にぬれ、下半身は裸。飲酒もしていた。この悪条件で3時間ほど路上に放置された後、軽トラックの荷台に乗せられ自宅へ運ばれた。

 2000年の証人尋問で池田教授はこうも証言していた。「頸椎に損傷があれば動かすのは非常に危険。一般論としては十分に注意して搬送しなければ、本来は心肺停止に至らない損傷でも、搬送時に死に至ることは十分考えられる」

 自宅搬送時、被害者は頬を強くたたかれ、荷台に放り込むように乗せられていた。言葉も発せられない状態だった彼はまさに、そのリスクに直面していたと言えないだろうか。

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