出血部位と死亡時期が鍵 検証・大崎事件(19)

西日本新聞 社会面

 2018年に福岡高裁宮崎支部が新証拠と認めた、東京医科大の吉田謙一教授による法医学鑑定。昨年6月の最高裁決定は、出血性ショックとするその死因について「尊重すべきだ」とする一方、「IとTが自宅に搬送するより前に、被害者が死亡または瀕死(ひんし)の状態だったことを直ちに意味する内容ではない」として証拠価値を否定した。

 だが、吉田氏は16年提出の補充意見書で「死亡時期」に関連する見解を示している。キーワードは「低体温症」。被害者は側溝に自転車ごと転落し、シャツは水にぬれ、下半身は裸のまま路上に倒れていた。口に入った泥も吐き出せない状態だった。

 意見書には、路上に倒れていた時点で「多発外傷による出血性ショックと低体温で、全身状態が極めて悪かったと推定」とある。飲酒後に受傷した被害者は外気が14・3度に下がる中、3時間近くも放置された。出血性ショックの外傷患者がそんな悪条件下に置かれれば、低体温が症状を悪化させ間もなく死に至るとする見解だった。

 九州大の池田典昭教授(63)にも今回、低体温症のリスクを尋ねた。被害者が頸椎(けいつい)を損傷していたと20年前に鑑定した法医学者だ。

 「低体温症は、15度を下回れば起きるのが常識。頸椎を骨折した変死体の死因では低体温症が多い。四肢がまひして動けなくなった人が、冬場に屋外で放置されればそのまま死亡する状態です」と教えてくれた。

   ◇    ◇

 最高裁が吉田鑑定の証拠価値を否定したもう一つの理由が「大量出血した部位」が明らかでない点だった。池田教授もこれに同調した。「どの部位から、どの程度出血しているかを明らかにできない限り、死因を出血性ショックと言えないはずだ」と指摘する。

 20年前に死因を「頸椎損傷による事故死の可能性がある」と鑑定した池田教授。遺体発見直後に司法解剖した鹿児島大の城哲男教授(当時、故人)による鑑定書や11枚の写真などが根拠になった。

 池田教授は「私が20年前に見た写真からでは、出血性ショックと鑑定するのは無理。その後、証拠開示された写真に中(体の内部)の写真があれば、話は別ですが」と述べた。

 原口アヤ子さん(92)の親族の自白(タオルによる絞殺)と矛盾しない確定判決時の城旧鑑定では、細かな「死亡時期」が問題にされることはなかった。最高裁決定は、再審開始を認めるに当たり、自宅到着時に死亡していた「可能性」を超えた、はるかに高い立証を求めたといえる。

 「疑わしきは被告人の利益に」に反する司法判断に思えるが、それが再審を取り巻く現実-。第4次再審請求では、弁護側が「死亡時期」と「出血部位」を、どれだけ絞り込めるかが焦点になりそうだ。

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