【解説】認定基準明確にせず 水銀の摂取者にも「他の疾患可能性」

 胎児、幼児期にメチル水銀の汚染被害を受けたとする原告8人全員の請求を退けた13日の福岡高裁判決は、どのような症状が水俣病かという基準を明確に示さず、原告らが訴える症状を「他の疾患による可能性がある」として切り捨てた。行政による厳格な認定基準を前に、司法に望みを託した未認定患者にとっての救済の道を閉ざしかねない判断といえる。

 水俣病を巡っては、国が1977年に感覚障害や運動失調など複数症状を認定患者の要件とする厳しい基準を提示。患者と認められなかった多くの人が裁判を起こし、司法は国の判断基準よりも幅広く被害を認めてきた経緯がある。

 未認定患者らが国と熊本県に賠償を求めた関西訴訟の最高裁判決(2004年)や、熊本県の女性=故人=が県に患者認定を求めた訴訟の最高裁判決(13年)は、感覚障害だけでも水俣病と認める判断を続けた。司法は柔軟な姿勢を示し、国の厳格な基準に疑問を投げかけた。

 国は14年3月、感覚障害だけでも認定可能とした一方、水銀摂取と症状の因果関係の立証に客観的な資料を求める新指針を関係自治体に通知した。

 この通知の直後にあった一審熊本地裁判決(同月)は、国の新指針に沿ったかのような判断を示す。同居家族の認定患者の有無を大きな判断材料に、3人は患者認定したものの、5人については請求を棄却した。

 控訴審で原告側は、漁業に依存していた当時の食生活や不知火海の広範囲が汚染された歴史など、水俣病の実態についての立証にも力を入れた。典型症状である感覚障害について、裁判官の理解を得やすくするため検査結果を客観化。阪南中央病院(大阪)の医師2人は、重りを使って感覚の程度を数値化し、検査によるばらつきを補った。

 しかし、高裁判決は医師の診断結果を採用せず、「かえって評価を誤りかねない」とまで指摘。高濃度の水銀摂取を認めた原告でさえも、他の疾患の可能性を理由に請求を退けた。

 「今までの裁判で積み上げてきたものを無にする、とても許せない判決。都合のいい国の証拠だけを採用しているとしか思えない」。原告側の康由美弁護士は痛烈に批判した。

 高裁判決は、患者認定や補償対象を広げつつあった司法の流れにブレーキをかけた。司法は患者認定が難しい「第2世代」の被害実態を改めて直視し、幅広い救済へと導くべきだ。(村田直隆、鶴善行)

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