平和、復興…時代の変遷映す 新名佐知子氏

西日本新聞 オピニオン面

聖火リレー

 東京2020オリンピック大会の聖火リレーは、3月26日に福島から始まり全国を巡る。1940年幻の東京オリンピックでは、国内ルートの起点を九州にしようとする計画があった。

 大会開催の決定後、国家創造神話の発祥地を主張する宮崎県が、高千穂峰から聖火リレーを始めることを提案した。宮崎から大分、そして山口から広島と進み、14日間かけて東京まで聖火を継いでいく。NHK大河ドラマ「いだてん」の主人公で、駅伝を広めた金栗四三は「皇祖発祥の地日向から聖火リレーを行ふことは、オリムピックの関心を深め国民精神を作興するといふ点で大いに意義があるでしょう」と応援した。しかし40年東京オリンピックは日中戦争の激化で返上される。

 戦後、64年東京オリンピックの開催が決定すると、宮崎県は再び聖火リレー国内ルートの起点に名乗りを上げた。オリンピックの聖地アテネは日本では宮崎になるという理屈である。しかしオリンピックは国威高揚から平和の象徴と姿を変えていた。国内ルートの起点は、日本に未(いま)だ返還されていない沖縄となる。日本の国旗を振ることもままならぬ米占領下にあって、実現は困難を極めたが、大会組織委員会の尽力で実現する。沖縄を駆け抜けた聖火は鹿児島と宮崎に空路で運ばれ、鹿児島から福岡の西上ルートと、宮崎から大分の東上ルートに分かれて九州を縦断した。

 2020年、聖火リレーの福島起点には震災復興の願いが込められている。各自治体のルートは、それぞれに任され、地域の魅力や文化を再確認できる仕組みになっている。複雑なルートにはなるが全都道府県を一筆書きで巡る形には、日本をつなぐ意味合いがある。九州は奄美大島や対馬、五島列島など島々も巡り、その過程で遣唐使船や日本泳法なども用いる。景勝地を走るだけでなく聖火リレーを通して九州独自の文化や歴史をもつなごうとしている。

 一方、今、世界は新型コロナウイルスで混迷している。オリンピック実施を危ぶむ声もある。アテネでの聖火採火式は無観客で行われた。都道府県で行うセレモニーや沿道の観客制限も検討されている。

 国威高揚から世界平和、そして震災復興や文化をつなぐ聖火リレー。2020年は、そこに新たな意味が加わるのかもしれない。

 新名佐知子(にいな・さちこ)秩父宮記念スポーツ博物館学芸員  九州大大学院博士後期課程満期退学。九州国立博物館研究補佐員などを経て、2012年より現職。スポーツ庁のスポーツ・デジタルアーカイブ構想調査研究事業委員などを務める。専門は教育学、博物館学。

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