出稼ぎ者に「感染国から帰るな」 タイ、コロナ禍で深まる弱者差別

西日本新聞 社会面 川合 秀紀

 新型コロナウイルスを巡り、タイでは感染者の多い韓国で不法就労していた数千人規模の出稼ぎ労働者が帰国を求める動きが表面化。国内で感染拡大の不安から「帰ってくるな」などの差別的な非難が続出している。政府の対応も二転三転し、感染パニックが社会的弱者への差別や冷遇につながる構図となっている。 (バンコク川合秀紀)

 仕事減ったスラム街、予防は不十分

 「タイに戻って感染拡大させるつもり?」「彼らに社会的責任という言葉の意味が分かるの?」「なんか汚らしい」

 タイの会員制交流サイト(SNS)では今月に入り、韓国から帰国する出稼ぎ労働者を攻撃する投稿が続く。

 査証(ビザ)なしで韓国に入ってそのまま不法滞在する就労者は数万人に及ぶ。韓国とタイ両政府は昨年末、特例として罪に問わず帰国を促す時限措置に合意し、一部帰国が始まっていた。だが2月末に韓国で感染者が急増すると、帰国を求める不法就労者も増加。帰国は5千人以上に膨らむと報じられ、感染拡大を不安視する世論が一気に強まった。

 不法就労者は「小さなお化け」というタイ語で呼ばれ、大半がタイ東北部など貧しい地方出身者。売春に関わる女性も多く、都市住民から差別されてきた。

 ある若い不法就労女性は今月初め、韓国から帰国する前に自身のフェイスブックに「私たちは外国で懸命に働いて家族にお金を振り込んでいるだけ。自分の国なのに帰れないというの?」とまくしたてる動画を投稿。帰国後には「感染が拡大するようゾンビになってやる」と飲食店で食事する様子も投稿。他の不法就労者も同様の投稿をしたことで、さらに国内で非難が強まる状況となった。

 政府は今月以降、感染者が多い韓国・大邱市などからの帰国者を政府関連施設に一定期間隔離。地方にも隔離場所を設ける案を打ち出したが、感染を恐れる地域住民の反発が相次ぎ撤回に追い込まれた。現時点で、帰国した不法就労者に感染者は確認されていない。

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 首都バンコクにあるタイ最大スラム、クロントイ地区に行くと、都心部では多いマスク姿の住民はほとんどいない。

 数少ないマスク姿の女性ヤオさん(53)は夫、孫3人と暮らす。夫は近くの港で荷降ろしの仕事をしているが、感染拡大で輸出入が減ったため収入は多いときで1日300バーツ(約千円)と半減し、借金がかさむ。「ウイルスのことはみんな知っているけど、感染の不安より、毎日どう生活するかで精いっぱい」

 同地区で住民支援を続ける非政府組織(NGO)のシャンティ国際ボランティア会の八木沢克昌さんは「打撃を受けている観光や飲食の仕事をしているスラム住民も多く、今後さらに深刻になる」と予想。その上で「スラムでは元々マスクなどを買う余裕や衛生意識に乏しい。狭いエリアに家が密集するだけに感染者が一気に拡大する恐れがある」と警鐘を鳴らす。

 地区住民らは今月初め、手作りの洗えるガーゼマスクを1枚30バーツで一般向けに売り始めた。軌道に乗れば地区内に配る計画だ。マスクを縫製していたチョーイさん(60)は「政府の支援は全く期待できない」と言葉少なに作業を続けた。

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