古代史のベールは厚い。なにぶん正確な記録文書が存在しない…

西日本新聞 オピニオン面

 古代史のベールは厚い。なにぶん正確な記録文書が存在しない。遺跡の出土品や古文書を手掛かりに、学者は研究を重ねる。それでも決め手を欠く

▼主に九州と畿内の2説に分かれる「邪馬台国」論争。異彩を放った人物もいる。宮崎康平。島原鉄道の運営に情熱を燃やしつつ、独学で卑弥呼の残像を追い続けた。昨日が没後40年の命日だった

▼失明の不運を逆ばねにした。妻に魏志倭人伝などを朗読、録音してもらい、何度も聞いた。文字ではなく言語の響きから過去を読み解き、実地調査を重ねた。集大成は妻の口述筆記による著書「まぼろしの邪馬台国」。九州説を唱えた執念と苦労は映画にもなった

▼政府が今回ばかりは詳しい記録文書を残すという。新型コロナウイルスの感染拡大を「歴史的緊急事態」に指定した。諸対策を決定した会議録などが保存対象になる。どこか釈然としない

▼政治の意思決定過程は基本的に全て記録すべきである。デジタル機器が発達した今日、録音や録画は簡単だ。古今東西、歴史文書は時の権力者に都合よく書かれがち。それを封じる意味もある

▼歴史の謎は多い。故に探究心やロマンが生まれるという見方もあろう。けれども、失政をベールに包んで後世に誤った教訓を伝えてはなるまい。反骨の宮崎は権威主義の学者を嫌った。考古学に挑んだ動機をこう記している。「歴史を国民の手に取り戻さなければならない」

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