需要に合う?特養ホーム整備計画 空きあるのに…違和感持つ既存施設も

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

特養整備はいま(下)

 福岡県の粕屋郡一帯の特別養護老人ホーム(特養)整備は、利用実態や将来の需要に合っているのか。

 特養の空きベッドが全国で目立つのは、新規入所の対象が要介護3以上になった▽有料老人ホームサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が増加▽介護職の人手不足-が主な要因とされる。

 2018~20年度の県計画で計190床の整備が決まった「粕屋圏域」も、現場の状況は同じだった。計画した篠栗、新宮、粕屋3町の担当職員を訪ねた。

 80床を設ける篠栗町は、高齢者の増加を主な理由に挙げた。17年は町内唯一の特養(50床)が満床で、入所申込者が40人おり、サ高住などを含めた施設の待機者が100人以上いたという。担当者は「町民に特養の選択肢は複数あるべきで、計画は適当です」。

 60床を予定する新宮町は、15年の人口が約3万340人で、10年から約5670人増えていた。急速な人口増は今も続き「ある程度の受け皿は必要」と職員。

 粕屋町は50床。計画を作る際、粕屋圏域や福岡市の特養に、新設された場合の影響を聞いた。「既に過剰」「職員確保がさらに難しくなる」との疑問が多かったが、25年に団塊世代が75歳以上になるため「必要性が増す」と判断した。

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 各町の説明のように、粕屋圏域は人口増とともに高齢者が増える傾向にある。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、10~40年に3町で篠栗町だけ人口が減るものの、高齢者は全て増える。今回の計画策定時に近い15年と、40年を比べると、各2千人台~4千人台で増加。要介護度が重い人も増えそうだ。

 こうした背景から、粕屋圏域では15~17年度、現在の一つ前の県計画で特養が60床整備された。一方、有料老人ホームは15年から12増の44施設(19年)に。特養は今年1月時点で67人分が空いている。受け皿は必要だが、前の計画から3倍以上となる特養整備を急ぐことに、「あなたの特命取材班」への文書や既存施設は違和感を示す。

 市町村が「新設したい」と考えたベッド数を、圏域ごとに調整する福岡県の担当課を訪ねた。

 職員によると、県はこのベッド数と、市町村がまとめた特養利用の見込み量が大きく離れていないかを見るという。職員は「特養は建設すると50年は使われる。粕屋圏域は人口の伸びが見込まれ、整備に違和感はなかった」と説明した。

 だが、3町の中には計画当時、複数の特養に入所を申し込んだ「重複分」を除く待機者数を把握しない不十分な調査例もあった。ある町は「既存の特養に待機者数は聞いたが、重複分を除いた数字があるのは知らなかった」と認めた。

 県関係者は疑問を呈する。「市町村がベッド数をまとめて県に出せば、それが通ることが多い。実態を把握せず建設し、空きが出たら誰が責任を取るのか」

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 特養を巡る環境は近年、大きく変わっている。

 採算ラインは建設費や人件費の高騰で80床程度に上昇。一方で職員が足りないとフル稼働できず経営難に陥るため、参入しづらい。個室の「ユニット型」建設が原則となり、料金の高さで敬遠される例もある。

 整備はどうあるべきか。福岡県の特養関係者に聞くと、提案が返ってきた。

 行政は計画と実態にずれがないか常に検証し、整備の必要性を考える。施設側も特養をはじめ、要介護者が介護保険を使って入る「介護老人保健施設」、「介護医療院」が空床や待機者の情報を交換し、必要なベッド数を考える案という。

 医療機関の「介護療養病床」の行方がどうなるかも大きい。国は23年度末での廃止を決めており、医療機関がこれを介護医療院に転換するか、一般病床にするかで受け皿は大きく変わる。この関係者は「各施設が腹の探り合いをせず情報を出し合わないと、将来的に必要な特養のベッド数は分からない。行政主導でそんな場ができないか」。

 国は「介護離職ゼロ」を掲げ、特養などの整備を20年代初めに前倒しする方針。一方、厚生労働省が16年、約570の特養から回答を得た委託調査では、開所から満床になるまで1年以上かかっている施設が14%と、空きが生じていた。

 淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「要介護者の数は35~45年にピークを迎え、ある程度は特養整備が必要」とした上で、「むやみに造る地域もあるが、適正な規模を適正に配置するのが原則。同時に介護報酬をきちんと手当てするなど、人材確保と育成を両輪で進めないと空床が生まれかねない」と指摘する。

 (編集委員・河野賢治)

 ▼ユニット型特別養護老人ホーム 食堂や浴室などの共用スペースと、個室を組み合わせた特養の形。10人程度の少人数単位のもと、自宅に近い環境で個別ケアができるとして、国が2000年代初めから導入を進める。料金は利用者の要介護度や収入、職員の態勢によって異なるが、従来型の相部屋より月2万~3万円ほど高いとされ、低所得者の負担が重いとの指摘がある。

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