舞台は15世紀末のパリ。ノートルダム大聖堂の聖職者はその赤ん坊を見て…

西日本新聞 オピニオン面

 舞台は15世紀末のパリ。ノートルダム大聖堂の聖職者はその赤ん坊を見て驚いた。「怪物のように見える容貌」だったからだ。赤ん坊は「カジモド」と名付けられた。意味は「できそこない」

▼人目に付かぬよう育てられたカジモドは、外出を禁じられ大聖堂の鐘楼で暮らした。だが、外の世界への憧れは募り、ある日、思い切って街に出た。そこに待っていたのは残酷な差別と嘲笑、暴力だった

▼劇団四季のミュージカル「ノートルダムの鐘」。先月、福岡市のキャナルシティ劇場で始まった公演(現在は新型コロナの影響で公演休止中)を見た

▼原作は1831年に発表されたユゴーの小説。王や教会が支配した時代、人々は身分制度に縛られ、理不尽な差別が横行していた。ユゴーは「人が人らしく生きられる社会」への願いをカジモドに託したように思える。自由や平等を求める大衆の声は、フランス革命へとつながる

▼「意思疎通できない障害者は不幸を生むから要らない」。そう言って知的障害者施設で入所者ら45人を殺傷した元職員に、死刑判決が言い渡された。残酷な犯罪を裁くだけでは事件は終わらない。なぜ彼はおぞましい考えにとりつかれ、社会のどこに原因があったのか-。一人一人の問題として向き合わねばならない

▼「できそこない」の人間などいない。無償の愛を貫いたカジモドの魂は誰よりも美しいことを、私たちは知っている。

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