感染者出れば休業は不可避…「既に限界」介護業界は戦々恐々

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 新型コロナウイルスの感染拡大に、通所介護デイサービス)や訪問介護の事業所も戦々恐々としている。感染者が一人でも出ると休業は不可避。サービスが滞れば家族を含め、在宅生活はままならない。介護業界はそもそも慢性的な人手不足に悩まされており、経営基盤の「弱さ」もあらためて浮き彫りになっている。

 13日午前、福岡市西部。デイサービス事業所を経営する男性(52)が送迎車を降り、一戸建て住宅のインターホンを鳴らした。

 出てきた利用者の女性(88)にあいさつし、非接触式の体温計を女性の額にかざす。熱はない。「では乗りましょうか」。女性の手を取り、乗車を促した。

認知症への影響大

 新型コロナ感染を未然に防ぐため、37・5度の発熱があれば乗車前に施設の利用を遠慮してもらうことにしている。市も「利用者から一人も感染を出さないことが最優先」として、各事業所に対し、送迎車に乗せる前の検温などを通知した。

 名古屋市では、感染者が複数のデイサービスなどを利用していたため、計126カ所の施設に休業を要請。福岡市もこうした事例を鑑み、利用者や職員の感染が発覚した場合、当該介護事業所の休業は「やむを得ない」との立場だ。濃厚接触者の動向によっては、複数の施設が休業を要請される可能性がある。

 「うちは市から言われる前から、自主的に乗車前の検温を始めていました」と男性。「もし休業となれば、利用者さんが大変なことになりますから…」

 男性が経営するデイサービス事業所は30人が利用。うち認知症の人は7割を超え、独居も15人いる。コロナの影響で「別の疾患があり、予防のため利用を見合わせたい」と家族から連絡があった1人を除いて全員が利用を続けており、通常通りのサービスを行う。

 一方、福岡市によると、既に感染症予防の観点から自主休業するデイサービス事業所も複数、出てきた。

 多くの家族は仕事を抱えるなど自宅での見守りは難しく、男性は「通う場がないと、一家の暮らしが維持できなくなる」と指摘。「認知症の人が家に閉じこもり、昼間に家族の支え手もなければ、徘徊(はいかい)なども増えかねない」と懸念する。

ヘルパー代替困難

 こうした事態を受け、厚生労働省はデイサービス事業所に対し、発熱で利用を断った高齢者には「訪問介護などの提供を検討する」ことを求めた。デイサービスの代わりにケアマネジャーに訪問介護事業所を探してもらい、生活援助や身体介護のヘルパーを派遣する、との方針だが-。

 複数の訪問介護事業所を経営するある社長は「今は訪問介護事業そのものが既に限界」とため息をつく。

 介護報酬が不十分などの理由で働き手は集まらず、ヘルパー自体も高齢化。70人を超えていた従業員はここ1年で60人を切り「利用したいという要望を断っている状況」という。

 感染対策としてヘルパー、利用者双方の検温など防止策に努めているものの「ヘルパーとの接触を敬遠し、利用自体をキャンセルする人」も。経営難に拍車がかかりかねない状況だ。

 厚労省は、デイサービス事業所が休業した場合は、職員が通常、施設で行うリハビリなどのサービスを利用者の自宅で提供するなど柔軟な運用も認めることにしている。しかし休業が相次げば、その需要は数十人~100人規模に及ぶ。訪問介護を含め、すんなり居宅でのサービスに移行できるかは見通せない。

現場任せいつまで

 今月初旬、同市早良区のデイサービス事業所でつくる「早良通所介護研究会」の役員が集まって意見交換。学校の臨時休校などにより出勤できない職員がいるため、逆に休んでいない職員の業務量が増えていることなどが話題になった。

 市は、コロナの影響で事業所の職員数が法定人員配置を下回っても、報酬の減算などペナルティーは課さない方針。しかし副代表で「ライフ・ステーション早良」の奥田和彦さん(52)は「感染リスクも抱え、通常以上の負担のなか、頑張ってサービスを維持している職員への報酬上の評価がない」ことを疑問視する。こうした介護現場の実情に理解が得られず「状況が落ち着いたら、退職したい」と相談してきた職員もいる。

 「現場頼みの対応が繰り返されるからこそ、介護業界には人手不足がつきまとう」。やりきれない表情で、奥田さんは語った。 (編集委員・三宅大介)

 デイサービス事業所を介在した集団感染 名古屋市では、新型コロナウイルスに感染していた80代の女性が複数のデイサービスなどを利用していたことが判明。関係者の間で感染確認が続いたため、市は3月6日、市内二つの行政区に所在する計126施設に対し、2週間の一斉休業要請に踏み切った。対象施設は約5800人が利用。感染した関係者の中には死者も出ているという。

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