脱北者新党、その先に 小出浩樹

西日本新聞 オピニオン面 小出 浩樹

 「脱北者」がマスメディアで取り上げられるようになったのは、いつごろか。

 記事データベースで本紙の場合を調べると、1999年11月の韓国ソウル特派員電で初めて登場する。まだなじみがない言葉であるため、当初は「食料などを求めて北朝鮮から国外脱出する人たち(脱北者)」などと書いていた。

 それから20年余。4月15日に予定される韓国の総選挙に向け、脱北者らが今月、新党「南北統一党」を結成した。

 昨年までに韓国に入国した脱北者は3万人を超える。一大勢力だ。新党はその利益を代弁し、「北に残した親きょうだいを独裁体制から解放する」のが狙いという。

 結党を報じる外電の中に、知る人の名を見つけた。党共同代表の金聖〓(キムソンミン)氏である。

 北朝鮮軍で政治宣伝用の物語や詩を作っていた人物だ。くしくも99年に脱北した。韓国ではラジオ局「自由北朝鮮放送」を開設し、初めて知る自由社会の豊かさを北の民衆に向け流してきた。「北の体制を礼賛していた身で気が引けますが…」。私の取材に体をすくめるように答えた。

 もう一人、私が会った脱北者は元工作員の安明進(アンミョンジン)氏である。「身を守るため」とソウル外れのやや怪しい宿を取材場所に指定してきた。工作員とはどんな術を身に付けているのか。「この建物を瞬時に吹き飛ばせますよ」。物騒な言葉の半面、変装用サングラスを外した目は優しかった。

 朝鮮半島に東西冷戦がなお残る現実を知るに十分な2人の存在だ。同世代の青年はともに「戦士」に育てられた。

 新型コロナウイルスが世界を席巻しているというのに、北朝鮮は日本海に向け飛翔(ひしょう)体の発射を続ける。

 何をしでかすか分からない凶暴さを今も演出しているつもりなのか。かく乱されてはならない。かつて訪朝取材した際、私と2人になった30代のガイド(監視)は夜、ビールに赤らんだ顔で、日本の政治状況について有力政治家の力関係を指摘しながら、すらすらと語ってみせた。かの国は思う以上に賢く緻密だ。

 新党とともに、注目されるのは昨年2月にスペインの北朝鮮大使館を襲撃した反体制組織「自由朝鮮」である。今も米国と通じ、金正恩(キムジョンウン)政権打倒を目指しているとされる。

 ここまで公然と、しかも複数同時に反体制運動が展開されたことがあっただろうか。この先に、何が待つのか。

 新党結成に対し、北朝鮮は対外宣伝サイトで「人間のくずたちの吐き気をもよおす騒ぎ」と批判した。焦りだろうか。金聖〓氏の解説を聞いてみたい。 (論説委員)

※〓は王ヘンに文

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