臨時休館で「できること」を模索する美術現場 SNSで情報発信

西日本新聞 文化面 諏訪部 真 佐々木 直樹

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた政府の自粛要請により、全国各地の文化施設が臨時休館して1カ月近く。九州でも展覧会や事業が途中で打ち切りになり、現場で落胆や混乱が広がっている。一方で、所蔵品のデジタルデータベース活用など、活動が制限される中でできることを模索する動きも出始めている。

 ◆分かれた考え方

 3月上旬。福岡市・天神の二つの商業ビル内で開催された現代美術の展覧会「数寄景」の開催を巡り、対応策が割れた。三菱地所アルティアムは3月1日から臨時休館し、8日の最終日を待たずに終了。別会場の三越ギャラリーは最終日まで予定通り開けた。

 閉鎖的な空間の感染リスクを巡って考え方が分かれた形だ。アルティアムを運営する三菱地所側は「不特定多数の人が出入りする閉鎖的な空間として休館した」と説明。休館しなかった岩田屋三越の担当者は「開幕後の様子を見た上で、大人数の密集状態にはならないと判断した」と語った。

 時を戻そう。

 安倍晋三首相が、スポーツや文化イベントの中止、延期を要請したのは2月26日。その後、国立美術館と博物館が臨時休館を決定。福岡市なども追従して市立美術館や博物館を臨時休館にした。27日には安倍首相が突然、小中学校などの一斉休校を要請、自粛の流れが加速した。

 「感染リスクが高いとされる屋内の閉鎖的な空間ではあるが、実際は感染を拡大させるほど混み合うだろうか」。企画展が最終日を待たずに終えた公立美術館の学芸員は釈然としない思いを隠さない。中止の要請に法的根拠はなく、公立館でも対応は分かれた。長崎県美術館(長崎市)は高校生以下の入場を制限しながら開け、鹿児島市立美術館は開館し続けた。

 専門家会議の見解で、美術鑑賞は「無症状者にとっては感染のリスクが低い活動」の一例とされた。別の学芸員は、無人の展示室を前に漏らした。

 「何が正解だったのだろう」。全容が見えないウイルス相手に振り回された徒労感をにじませた。

 ◆熊本地震の経験

 「不安が充満しがちな今だからこそ、作家たちのまっすぐな生き様に触れて、少しでも明るく穏やかな気持ちを取り戻していただければ幸いです」

 先月29日から臨時休館中の熊本市現代美術館は7日、「閉館のお詫びと開館に向けて」と題した文章を岩崎千夏副館長名でホームページに掲載した。以後、開催中だった企画展の裏話や4月11日から開催予定の展覧会情報などをSNSで発信している。

 休館から表明文を出し、情報発信を始めるまでに1週間の空白があった。その間に気を配ったのは、受け手である市民と美術館の気持ちの温度差を縮めることだった。岩崎副館長がこう説明する。

 「市民がまず求めるのは医学的、科学的な情報でしょう。一足飛びに美術館がこんなことしてますよ、と独りよがりな発信ではいけないと思った」

 同館は2016年4月の熊本地震の際、当時の桜井武館長(故人)が「美術館を美術館として一刻も早く開けましょう」と職員に呼びかけ、余震が続く中で約2カ月半で全面再開した。美術のみならず、すべての芸術は社会に役立つと確信を持って実践してきた。発生から時間とともに復旧、復興に向かう災害と異なり、今回は先が見通せない中でも、先の地震の経験を生かした対応を心がける。

 大仰な取り組みだけでもない。コロナの話題ばかりだとつらくなるからと、SNSでは鉢植えのコチョウランの花が咲いた画像を投稿するなど、平時のような投稿も織り交ぜる。

 ◆意識を変えるか

 外出できなくても美術作品との接点を作る方法を模索する動きも出始めた。

 福岡アジア美術館(福岡市)は公式ブログやSNSで、グーグルの「Google Arts & Culture」を活用し、ウェブ上で疑似的に館内見学できるサービスを紹介。自宅にいながら名画を鑑賞でき、360度全方位のパノラマ写真上を好きな方向に進むことのできるストリートビュー機能を使って、人混みに邪魔されることなく館内を歩いているかのような体験ができる。

 福岡市美術館は、所蔵する古美術の塗り絵をホームページで提供した。岩永悦子学芸課長は「来館できなくても楽しめることを示したかった」と語る。両館とも、誰でもアクセスできる所蔵品データベースと連動し、閲覧を促している。

 もともと欧米の有名美術館や博物館では所蔵品のデジタル活用が進んでいた。全国の国公私立美術館が加盟する全国美術館会議の情報・資料研究部会幹事、鴨木年泰さんも「世界的なトレンドとして、公開する情報はより広く深くなっている」と指摘する。

 一方、国内ではインターネットを使った所蔵品や資料の情報公開が遅れている。同会議の調査(2013年)では、検索型の所蔵品データベースをホームページ上で公開しているのは359館中57館で、16%にとどまっていた。人員や予算の問題で現在も大きく進んでいないとみられる。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大に伴う政府の自粛要請で、特に公立の美術館や博物館は、非常時に「公立施設としての役割」を果たしたくとも開館できないジレンマに直面した。だが、「コロナショック」は所蔵品や資料のデジタル活用や公開に対する館の意識を変えるきっかけとなる可能性も秘めている。

 (諏訪部真、佐々木直樹)

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