ダレのせいかリレー 吉田昭一郎

西日本新聞 オピニオン面 吉田 昭一郎

 安倍晋三首相が26日、福島県のJヴィレッジ(楢葉、広野町)である東京五輪の聖火リレー出発式に行くという。

 注目は浪江町のコースだ。空飛ぶ車やロボットのテストフィールドと、今春開所の水素製造施設がある水素エネルギー研究フィールドという国の「福島イノベーション・コースト構想」の拠点間を走る。「福島の復興を世界に発信したい」と訴えてきた首相には最大の見せ場かもしれない。

 だが、浪江は聖火リレーに歓迎一色ではない。帰還困難区域指定が続く阿武隈山系の津島地区は今、集落が消滅しつつある。人々は村に帰りたくても帰れない。家々は草木に覆われ、屋内は動物に荒らされ、畳はかびで腐敗する。もはや家は「放射性廃棄物」だ。特定復興再生拠点区域とされた一部地域の家々は除染、解体されている。今なら公費処理できる。家を「負の遺産」として次世代に先送りできない。人々は家族の思い出を宿す家との断腸の別れに追い込まれているという。

 「聖火リレーで水素製造工場が映し出され、浪江の復興が済んだと思われるとすれば不本意だ。原発事故で消えゆく集落がある。リレーは津島を走ってほしいくらいだ」。家々の姿を記録し伝えようとドローン空撮を試みる住民団体会長、佐々木茂さん(65)の言葉が耳を離れない。

 約500世帯は全国に散り散りとなったままだ。「賠償金をもらっただろ」などのいじめに傷つき、避難者であることを隠し息を潜めるように暮らす。職を転々として先が見えない人もいる。にもかかわらず3月末で、津島など帰還困難区域の人も含めて、浪江の避難者への住宅無償提供が打ち切られるという。

 浪江の聖火コースの空間放射線量は毎時0・05マイクロシーベルト。国の長期的目標値の年間1ミリシーベルト(毎時換算0・23マイクロシーベルト)を下回る。低線量は復興イメージを導くが、津島など帰還困難区域は全く逆の高線量だ。避難解除地域でも目標値を超えている。住民登録者のうち実際に町に住むのは7%の約1200人にすぎない。

 2月末、Jヴィレッジ周辺を「福島はオリンピックどごでねぇ!!」との横断幕を手に住民らが練り歩いた。「ダレのせいかリレー」と銘打った抗議行動だった。「誰のための聖火リレーか」「誰のせいか、この苦しみは」。そんな思いを訴えたい人たちがいる。五輪に、はしゃげない気持ちを誰が責められようか。 (クロスメディア報道部)

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 今の福島を追う連載「あの映画 その後」を本紙ウェブサイトに掲載中。

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