「孫娘より先でうれしい」73歳元炭鉱マン 半世紀かけ大学卒業

西日本新聞 社会面 吉田 賢治

 福岡県大牟田市の元炭鉱マン、藤木英弘(やすひろ)さん(73)が、22歳で入学した中央大法学部の通信制を半世紀かけてこの春に卒業した。退学、復学を繰り返しながらも、商法や民法、刑事訴訟法などの取得単位を積み上げ、念願を果たした。三池炭鉱時代に培った「諦めたら終わり」の信念で初志貫徹した藤木さん。「どちらが早く卒業するか競争していた孫娘に勝ってうれしい」と喜んでいる。

 藤木さんは地元の三池工業高採鉱科を卒業後、1965年に三井鉱山(当時)に入社。三池炭鉱三川坑に配属されて最前線の採炭、掘進に従事し、3年ほどで現場監督となった。ただ、所属する職員労働組合のほかに労組は二つに分裂しており、会議では労組ごとの主義主張の違いなどに直面。「論理立てた思考が求められ、法的知識の必要性を痛感した」という。

 68年4月に中央大法学部通信教育課程に入学。難解な法律用語に悪戦苦闘しながらも、リポート提出や試験に挑み続け、年に数回は都内の大学に出向いて授業も受けた。仕事が忙しく勉強できない時期に、退学を余儀なくされたことも何度かあったが、数カ月から数年後に復学。単位が一部引き継がれる制度を活用し、少しずつ卒業に必要な単位を取得していった。

 3人の子どもたちは早々に大学を卒業。三井鉱山の関連会社を61歳で退職後は、孫娘と大学卒業の早さを競って自らを鼓舞した。残る単位がわずかとなった最後の1年は「覚えるより、忘れていくスピードの方が早い」と自覚しながらも朝から晩まで机に向かい、試験の過去問題を解くのに没頭した。

 目標達成には、炭鉱時代の上司の教えがあったとの思いがある。「同じ悔やむのなら行動した上で悔やんだ方がいい、との言葉をずっと心の支えにしてきた。人生のさまざまなことを学んだ三池炭鉱に、本当に感謝している」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で卒業式が縮小され、出席できなくなったのが心残りだ。それでも勉強を続けるのが生きがいとなった藤木さんは「次は行政書士の資格取得を目指したい」と、さらなる夢を追う。 (吉田賢治)

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