平野啓一郎 「本心」 連載第192回 第八章 新しい友達

西日本新聞 文化面

 嬉(うれ)しかったのは言うまでもないが、その理由の一つは、三好を彼に紹介する良い機会だと思ったからだった。

「ありがとうございます。是非(ぜひ)。――あの、……図々(ずうずう)しいですが、僕とルームシェアしている友達も、出来たら連れてきたいんですが。イフィーさんの大ファンなんです。」

「もちろん、連れてきて下さい! 朔也(さくや)さんのお友達なら、大歓迎です! 一人ですか?」

「はい、一人です。」

「了解です!……」

 

 僕は三好がどんなに喜ぶだろうかと、胸を高鳴らせて帰宅したが、リヴィングでケータイを弄(いじ)っていた彼女にそのことを伝えると、意外に、すぐに喜びを爆発させるわけではなく、

「……いいの、わたしが行っても?」

 と遠慮がちに尋ねた。

「もちろん!」

 と、僕はイフィーの快活な口調が移ったかのように言った。三好は、少し驚いた風だったが、まだ戸惑いを捨てられなかった。

「パーティーって、たくさん人が来るんでしょう?」

「どうですかね? あんまり友達がいそうな感じはしないですけど。」

「でも、いるでしょう、いくら何でも? 何十人も来るんじゃない?」

「……そういう話なんですかね。」

「でしょう? クリスマス・パーティーなんだし。何着ていくの、朔也君?」

「え、……」

「服。――わたし、イフィーの家のパーティーに行くような服、持ってないよ。」

「いや、……普段着じゃダメですか? いつも、動きやすい恰好(かっこう)で行ってるので。」

「ダメでしょーっ!? みんな、スゴくオシャレしてくるんじゃない? きっと、浮くと思う、わたしと朔也君だけ。」

 僕は、考えてもみなかったが、あの広いリヴィングに「あっちの世界」の人たちが、グラス片手に溢(あふ)れんばかりに集っている光景を思い描いて、そうかもしれないという気がした。

「じゃあ、服、買いに行きます?」

平野氏のメッセージ

私たちの生を、さながら肯定する思想を考え続けています。主人公は、愛する母親を亡くしたあと、仮想現実によって再現された母親と生活することになります。その過程で見えてくる母の本心と、自分の心の変化が主題です。乞うご期待!

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)プロフィール

 1975年、愛知県蒲郡市生まれ、北九州市育ち。東京都在住。京都大在学中の99年、デビュー作「日蝕」で芥川賞。「ある男」(読売文学賞)など。「マチネの終わりに」(渡辺淳一文学賞)は福山雅治さん、石田ゆり子さん共演で映画化された。

マチネの終わりにの公式サイト

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