【新型コロナウイルス】 藻谷浩介さん

西日本新聞

◆どこまで怖がるべきか

 世界中で新型コロナウイルスのまん延が止まらない。欧米では、外出禁止令も相次いでいる。だがパニックになるのはまだ早い。ネットのコメントや一部のメディアは感情をあおるが、それらは脇に置いて、いま何が起きていて、これからどうなるのか、冷静に推論してみたい。

 まず参考になるのは、横浜港で待機したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」のデータだ。21日現在、乗客乗員3711人のうち新型コロナウイルスに感染したのは712人で、うち発症したのは379人。亡くなったのは8人。乗船者全員を母数とすれば、感染率は19%、発症率は10%、亡くなった率は0・2%。死亡率は通常、死亡者数÷感染者数なので、1・1%となる。

 それはともかく、乗客乗員の8割は感染せず、残る2割の感染者もその半数は発症しなかったわけだ。無症状の感染者がウイルスを広める可能性が常にある中で、手洗いと換気と各自の免疫力により、それなりに対処できていたことになる。

    ◆   ◆

 船内で19%だった感染率は、今後の日本でどうなるだろうか。幸いにもまだ、国全体でもどの自治体でも、人口当たりの感染率は0%(0・1%未満)だが、今後どう推移するかは予断を許さない。

 2009年の「新型インフルエンザ」の場合は、最終的に国民の12%が感染したと推計された。今回は、インフルエンザと違って、発症者は入院、隔離されている。それらを勘案し、感染率を数%、死亡率を1%と仮定する。そうすると死者は数万人という計算になる。

 これは大惨事に思えるかもしれないが、日本ではもともと旧来型の風邪をこじらせた肺炎(誤嚥(ごえん)性を除く)で、高齢者を中心に年間9万人が亡くなっている。高齢者が日々、旧来型の肺炎で亡くなっているはずだが、これらは全く報道されず、新型ウイルス肺炎の死者だけが報道されるので、パニック心理がかき立てられやすい。

 しかも今回のウイルス感染による死者は世界的に70代以上に偏っている。用心する高齢者が増える分、両者の合計は減るかもしれない。実際に今年は、手洗い普及の思わぬ効果で、昨年も3千人以上が亡くなった旧来型のインフルエンザの流行が、すっかり下火だ。

 さらに言えば、死亡率も1%より下げられる。高齢者施設や医療機関は例年以上に早期対処するだろうし、インフルエンザに対するタミフルのような、抗ウイルス製剤も遅かれ早かれ実用化されるはずだ。

    ◆   ◆

 以上は全国的な話だが、九州は今のところ感染者数が少ない。温暖な分、呼吸器を冷やすリスクが低く、部屋の換気もしやすいと思うが、九州も政府要請に応じて一斉休校し、子どものいる家庭には大きなストレスがかかり、イベントの自粛で集客交流関係の産業は仮死状態になってしまった。これらがいつまで続くのか、その間にどれだけの企業が経営危機に陥るか、空恐ろしくなる。

 そこで九州人には、適度に外出し運動することをお勧めしたい。そうすれば生活習慣病やうつ病を防げるし、経済のまひも避けられるだろう。専門家の意見を聞きながら、個別自治体の判断で学校は再開していいのではないか。日本の場合、以前から宿泊・飲食関係はノロウイルス対策で清潔を徹底している。息がかかるほどの近接は避け、手洗いも徹底しつつ、旅行や外食もしていいだろう。

 ずるずると長引くかもしれないウイルスとの戦いだが、パニック心理は早く脱した方がいい。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ