被告の逃走防止 人質司法にも目を向けよ

西日本新聞 オピニオン面

 刑事事件で保釈された被告らの逃走をいかに防ぐか。森雅子法相が新たな法整備を法制審議会に諮問した。日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告の海外逃亡などを受けた措置で、国民の関心も高いテーマだ。ただ逃走防止を優先するあまり、保釈の要件自体を狭めるような議論は避けるべきである。

 保釈中の被告らの逃走は、ゴーン被告に限らず多発傾向にあり、昨年は危険を伴う事案も相次いだ。神奈川県で窃盗罪などの実刑が確定した男が身柄を収容しようとした地検職員に刃物を向けた。大阪府では保釈が取り消された覚醒剤事件の被告が護送車から飛び出し逃げた。

 現行法には、こうした逃走行為自体を犯罪として処罰する規定がない。刑法の逃走罪は刑務所などで収監中に逃走した場合に適用される。保釈中に逃げても、保釈決定の取り消し、保釈金没収、身柄の収容措置などがあるだけで刑罰は科されない。

 社会の安心、安全を考えれば歯止めは必要だろう。法制審では、保釈中の逃走に処罰規定を設けることや、衛星利用測位システム(GPS)を被告らに装着して行動を監視する手法などが検討される見通しだ。

 この動きと相まって、捜査機関の側からは裁判所による保釈決定の厳格化を求める声も出ている。保釈自体を制限すれば、その分、逃走のリスクも減る-という捉え方だ。これは一見妥当なようで短絡に過ぎる。

 日本の刑事司法制度は、被告らの長期の身柄拘束を伴うことが多い。自白の誘導といった不当な捜査や冤罪(えんざい)を生む要因とも指摘されている。「人質司法」と呼ばれる問題だ。その批判を受け、近年は一審段階での保釈率が3割を超えるなど、裁判所の対応にも変化が生じている。

 保釈の厳格化は、この流れに逆行し、人質司法を助長しかねない。逃走に刑罰を設けるにしても保釈は極力認めるべきだ。GPS装着には人権侵害の懸念もある。慎重な議論が必要だ。その上で、導入する場合は装着を条件にして、むしろ保釈をより広く許容すべきだろう。

 保釈は長期の拘束を避け、被告に日常生活の中で弁護士との打ち合わせなど裁判の準備期間を与える制度だ。ところが実情は、起訴内容を否認しているだけで「証拠隠滅の恐れがある」として認められない例も多い。日弁連などは「現状でも不当な面が多い」と主張している。

 4度にわたる逮捕で身柄拘束が100日余に及んだゴーン被告の事件の教訓は、逃走の防止策の見直しだけではあるまい。問題の本質はどこにあるか。刑事司法制度の全体像を見据えた議論を求めたい。

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