#みんなの卒業式 謝恩会は中止だけど…はかま姿で感謝を伝えに

西日本新聞 社会面 押川 知美

 卒業式は縮小し、謝恩会は中止になった。それでも、はかまをレンタルしてお世話になった人たちに会いに行きます-。西日本新聞あなたの特命取材班に、長崎県から一報が入った。「レンタル店も新型コロナウイルスの被害者。人生一度の機会だから大切に着ることにした」。“晴れの日”の女子大学生の一日に同行した。

 卒業を迎えたのは、同県長与町に住む長崎純心大4年の田尾いずみさん(22)。同大の卒業式では黒いガウンと角帽を着用するのが通例で、謝恩会ではかまを着る学生が多い。田尾さんも昨年5月から着物レンタル店をたびたび訪れ、振り袖とはかまのデザインを選んできた。だが新型コロナの影響で、謝恩会は中止となってしまった。

 キャンセルすることも頭に浮かんだが、予約していたレンタル店「キモノポッペン」(長崎市)から「中止の場合は全額返金。予定通り着てくれる人には、半額返金した上で、専属カメラマンが無料で記念撮影する」と連絡があった。

 店に落ち度はなく、むしろ被害者。良心的な対応に胸を打たれた田尾さんは、はかまを着ることにした。

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 卒業式当日。規模を縮小した学科ごとの式典は、1時間ほどで終了。正午すぎ、レンタル店に到着した。昼食を食べる間もなく、4人がかりで着付けとヘアメーク、写真撮影に移る。

 店のオーナー市原ゆかりさんは「卒業式は着物に親しんでもらう貴重な機会。少しでもファンを増やしたかった」と、今回の対応の理由を話した。それでも2月以降のキャンセルは50人を超えたという。

 カメラマン宇川雅紀さんは「大切な思い出の一ページとして残してほしい」。山吹色の振り袖に紺のはかま姿の田尾さんに、何回もシャッター音が降り注いだ。

 次に向かったのは、隣町に住む祖父母の沖崎吉次郎さん(81)、フサヨさん(81)宅。謝恩会に出席していれば、この日は会えないはずだった。田尾さんのきょうだいもそろって記念撮影。吉次郎さんが「晴れ姿を直接見られてよかった」と目を細めると、フサヨさんも「4年間よくがんばったね。立派な社会人になってね」とエールを送った。新型コロナの予防を意識して、「最近はこれで、でしょ」と、ハイタッチならぬ肘タッチを交わした。

 午後4時すぎ。最後に訪ねたのは、4年間アルバイトをした長崎市の老舗中華料理店だ。新型コロナの影響は街全体に及び、昨年よりも客足が大幅に減っている。

 「接客の楽しさを教えてくれた、家族のような存在」と語る田尾さん。店主の林慎太郎さんは「店を明るくする存在だっただけに、卒業はさみしい。社会人として食べにきて」と手を振った。

 日が傾いたころ。お世話になった人々を訪ね終えた田尾さんは「特別な一日」を大切に心に刻んだ。「卒業式は自分にとってもけじめ。お礼やお別れを言えたことで、社会人という新生活への気持ちの切り替えができた」

 4月には冠婚葬祭会社に就職する。見守ってくれたたくさんの人との思い出を胸に、自宅を出て1人暮らしをするつもりだ。 (押川知美)

#みんなの卒業式 西日本新聞は全国の地方紙やNHKと連携し、新型コロナ禍で卒業式の中止や縮小を余儀なくされた10代の皆さんが卒業式で伝えたかった友達や先生、家族への思い、卒業生へのエールなどを伝える「#みんなの卒業式」プロジェクトに参加しています。

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