試練再び、未知のかじ取り 山下泰裕JOC会長

 4カ月後の開幕に向け、準備にまい進してきた日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長(62)=熊本県矢部町(現山都町)出身=は、日本スポーツ界のリーダーとして未知のかじ取りを強いられる。

 大会の延期決定を踏まえた報道陣への対応は都内で25日午前に行う予定。各競技団体の内定選手の取り扱いや今後の代表選考は大きな焦点だ。自身が1980年のモスクワ五輪で経験した「幻の五輪代表」が生まれる可能性もある。

 40年前は東西冷戦下でのソ連(当時)のアフガニスタン侵攻もあり、米国や日本など西側諸国がボイコット。代表候補選手らは参加を求める要望書をJOCに提出したが、山下氏の「夢を絶たないでください」との訴えは通じなかった。

 不参加の方針を固めた日本政府から説明がなく、当時は日本スポーツ界にも「スポーツの力や価値を(政府に)伝える力がなかった」と振り返る。JOC会長に就任した昨年、当時の代表選手を招いた「集いの会」を初めて開いたのも、理不尽に夢を絶たれた選手の葛藤や苦悩を思いやっての行動だった。

 スポーツが政治に屈した40年前と、地球規模での感染拡大が続く今回では状況が異なるが、ピークを「4年に1度」に合わせる選手の競技人生を左右することに変わりはない。モスクワ五輪の場合、柔道代表7人のうち、次の84年ロサンゼルス五輪に出場できたのは山下氏だけだった。

 今回の感染拡大には既知の解決法がなく、現時点では大会を安全に開催できない以上、延期はやむをえない。23日にも「アスリートの安心、安全が最優先」と強調。その一方で「これが最後だと思っている選手もいる。長い延期にならない方がいい」と話していた。

 山下氏は「一人では何もできない。でも、一人が動かなかったら何もできない」という言葉を大切にする。その真意は「その一人になろうという決意よりも、一番恵まれている人間がそうではない人のために汗をかくのは人間の責務だと思う」。選手に今まで以上に寄り添い、平和の祭典を成功に導くための新たな挑戦が始まる。 (西口憲一)

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