クラシックの帝王と落語の名人 年齢重ね気づいた“本物”の共通点

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(61)

 前回の最後に「軽井沢に移り住んだとよ」と口走りましたが、避暑地での優雅な暮らしの自慢話(笑)は次回ということにして、今回は最近気付いた音楽の話を少々。

 テレビ番組は一切見ませんが、音楽は毎晩のように聴いています。ロック、ブルース、ジャズ…。クラシックもよく聴きます。今は動画サイトで指揮者の姿を見ることができます。あるとき、指揮者の指の動きに感じるものがありました。

 カラヤンです。「ラ」のところが「ロ」なら、髪の毛が寂しい男性がお世話になっている発毛促進薬ですが、ヘルベルト・フォン・カラヤンのことです。ご存じでしょうが、クラシック音楽界の帝王と呼ばれ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団などを率いたオーストリアの指揮者です。目を閉じたままの神秘的な指揮が特徴で、楽団員の華麗な演奏を引き出しました。

 私が見た動画は、1987年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤーコンサート。カラヤンが78歳の時の指揮です。私はカラヤンが指揮する姿(映像)を初めて見たのですが、驚きました。喜寿を過ぎても、力強さと気品ある姿に感銘を受けたのは当然だとして、左手の踊るようにしなやかな動き、その指先から楽団員たちに心情が伝わるような繊細な動きに驚いたのです。

 私は感じました。この手の動きは志ん朝と同じだと。テレビ東京の特番で一緒に仕事をした、あの古今亭志ん朝さんです。

 私が一番好きな噺家(はなしか)で、毎晩のように動画で在りし日の高座を楽しんでいます。その中で「二番煎じ」を口演している時の、指先から登場人物の心情がお客さまに伝わるような手の動き、表現力はカラヤンのそれと同じだと私には思えたのです。

 本物というのは、ジャンルを問わず、世の東西を問わず、変わらないのではないでしょうか。洋装と和装と格好は違っていても、本物のたたずまいは似ているのです。20世紀のクラシックの帝王と20世紀最後の名人。故人となっても、いまだに圧倒的な支持を得ています。

 古典の中に現代がある。まさに故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る。時間がたっても古くなるどころか、ますます磨かれて光っている。時に鍛えられた本物は、いつの世でも変わらないのでしょうね。66歳の新たな発見でした。だから年を取るのは面白い。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年08月28日時点のものです

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