懸命な姿に胸が熱く… 愛犬・ボーイが気づかせてくれた“忘れ物”

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(65)

 軽井沢に移り住み、ひょんなことから犬を飼い始めた私。犬種はイングリッシュ・コッカー・スパニエルで、名前はボーイ。生後4カ月。少年時代に怖い思いをして犬は苦手だったのに、少女時代から犬好きだった妻の衝動買いに従ってしまいました。2000年9月、私が47歳の時。

 拙著「軽井沢のボーイ」(牧野出版)に記しましたが、ボーイは洋犬。外国の考えを理解しようと「犬のすべてがわかる本」を読んで学習しました。後は実地訓練のみですが、これがなかなかうまくいかない。いら立った私は、悪い癖で妻に当たってしまい、またけんか。

 夫婦がぎすぎすしていたときに仲立ちとなるはずだったのに、皮肉にも彼の存在がまた火種になったのです。言い争う姿を気の毒だと思ったのでしょう。ボーイはわずか4日で「待て」「よし」「座れ」、排せつなど室内で必要なしつけを覚え、散歩デビューも果たしました。

 散歩に慣れると、誰もいないグラウンドでリードを外して遊ばせました。離れた所にいても「ボーイ!」と呼べば一直線に私のところに走ってきます。どこにでも逃走できるのに私のところに帰ってくる。真っすぐで、忠実で、懸命な姿に胸が熱くなり、私の中の何かがはがれ落ちました。

 仕事をするとき、長年身にまとっていたよろいみたいなもの。「強がり」「見えや功名心」「疑心や不信感」-。俗な私ですから、そういうものを再び身にまとうかもしれません。でもあのとき、確かになくなったのを実感しました。ボーイのおかげです。

 成犬になって、一段とりりしくなったボーイは私たちにとってかけがえのない家族になりました。江戸時代を舞台にしたNHK「お江戸でござる」の台本を長く書いていましたが、ボツになると憤怒の炎を抱えたまま帰宅します。玄関の扉を開けると、喜びの声を上げて迎えてくれるボーイと目が合うだけで、怒りの炎は鎮火しました。私を待っていてくれたうれしさで。

 犬はいちずで、けなげです。生きていく途中で私がどこかに置き忘れてきたこの二つの言葉を、ボーイは思い起こさせてくれました。犬を飼っている、または飼っていた方もそんなことがありませんか。

 おとなしくて、私と妻に忠実なボーイ。相思相愛です。そんな「息子」とずっと一緒だと思っていましたが…。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

………………

 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年09月02日時点のものです

長崎県の天気予報

PR

長崎 アクセスランキング

PR

注目のテーマ