妻の行動に脱力するも…助けてくれた意外な存在に感謝

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(70)

 軽井沢にあった自宅を飛び出した妻は意外な所にいました。私の故郷、佐世保です。

 酔った私から心ない言葉を浴びせられた妻は翌日、行方が分からなくなりました。2008年11月のことです。見つかってほっとしましたが、まさか、新幹線やJRを乗り継いで千キロ以上離れた街にいたとは。

 私たち夫婦はそれまで年に何度か、以前住んでいた横浜や軽井沢から車で佐世保に帰郷していました。途中、京都や奈良を観光しながらの旅。妻も自然豊かなわが故郷を楽しみ、私の同級生たちとも親しくなりました。その同級生の一人から「ゆかりちゃん(妻)はここにおるばい。大丈夫」と連絡がありました。

 私の心配をよそに、家出中の妻はどうやら佐世保を満喫していたようです。里山を巡るウオークラリーを私の同級生の奥さんたちと楽しみ、本土最西端の岬から海に向かって「海老原のバカヤロー」と同級生の奥さんたちと大声で叫んだそうです。妻も私と同じ海老原姓なのに、と笑ってしまいますが。

 家出前日に、死にたいとつぶやいた妻。万一のことを心配して警察に相談し、雪のちらつく軽井沢を必死で捜し回った私。開けてみれば、妻は佐世保で「バカヤロー」と叫んでいたというオチ。当人にとっての悲劇は、周囲から見ると喜劇なのです。これこそ、人生のコント。

 それにしても、同級生と奥さんたちには助けられました。妻は東京生まれの横浜育ち。佐世保は私の故郷とはいえ、両親と生みの親の叔母は既に他界。一人っ子の私にはきょうだいがいません。縁者が少なくなった故郷ですが、同級生、特にその奥さんたちが妻を優しく、さりげなく、温かく、和やかに迎えてくれたのです。

 妻は1週間後、軽井沢に帰ってきました。もちろん元気です。私はいろいろと考えました。軽井沢の生活は楽しめました。日本を代表する避暑地で、少しぜいたくな暮らしができました。しかし、結婚して三十数年、仕事は潤沢にあったけれど、どこの夫婦にもあることかもしれませんが、波風は立ちます。ぎすぎすすることもあります。皆さんのところはどうですか?

 愛犬の死。そして妻の家出。56歳。これからはカネでもない、地位、名誉でもない。そろそろ生き方も変える時期ではないか。決めました。

 「佐世保に帰ろう」と。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年09月07日時点のものです

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