ウルトラQの謎を解く

西日本新聞 オピニオン面 上別府 保慶

 ウルトラものの始まりとなった「ウルトラQ」は、1966年に子供たちがテレビの前に群がって見た白黒の特撮ドラマだった。その第5回は南極越冬基地が舞台の「ペギラが来た!」。視聴率は約35%もの高さだった。粗筋はこうだ。

 越冬基地を出たまま姿を消した野村隊員が3年後に遺体で見つかった。彼は冷凍怪獣ペギラが起こす吹雪のために凍死したのだ。しかし遺体のそばにいたソリ犬のサブは元気だった。サブはコケを食べて生き、そのコケを嫌う怪獣ペギラは近づけなかった-。

 この話、60歳代ならピンとくるのでは。幼いころに百貨店の書籍売り場で「あっ、ペギラだ!」と叫んで「怪獣図鑑」をお買いになった天皇陛下もそのはず。そう、この物語の下地は、58年に南極の昭和基地に置き去りにされた樺太犬のうち、翌年に2匹が生きて見つかった「タロとジロの奇跡」の実話なのである。

 タロとジロの生還には日本中が涙したが、基地に残されたソリ犬15匹の中で、なぜ幼い兄弟の2匹だけが生き延びられたのかは謎だった。つながれた首輪は体がやせて抜け出せても、基地の保存食料はこん包されたまま残っていたからだ。

 ところがこの2月、謎を解く本「その犬の名を誰も知らない」(小学館集英社プロダクション)が出た。著者は元西日本新聞記者の嘉悦洋さん(68)。そして監修者は第1次と第3次の越冬隊員でタロとジロを訓練した九州大名誉教授の北村泰一さん(88)だ。

 北村さんは過去にもタロとジロの物語を書いたが、2人は改めて当時の資料を調べて検証を重ねた。そして自らは力尽きながらもタロとジロを守った先輩犬がいたという結論に達したのだ。それは、強い保護本能と指導力を備えたベテラン犬の「リキ」だった。

 過去の記憶をたどるのは北村さんにはつらかった。天候悪化などやむを得ない理由があったとはいえ、ソリ犬を残したことに、当時の風当たりは強かった。何より北村さん自身が手塩にかけた犬たちだった。

 ちなみに、1911年に南極点へ初到達したアムンゼンも犬ゾリを使ったが、この時代は役に立たなくなった犬は射殺して人や犬の食料にした。加納一郎著作集1「極地の探検」(教育社)に、そんな苛酷な歴史が記されている。

 そのためか一部のマスコミは、タロやジロも共食いをしたのではと書いたが、それは大間違いだった。記憶力に優れたリキは、人間たちが忘れた食べ物のありかを覚えていたのだ。

 ネタばれはここまでに。昭和の謎を解くノンフィクション「その犬の名を誰も知らない」は上質のミステリーであり動物記である。 (特別編集委員・上別府保慶)

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ