最高裁決定に縛られるな 記者ノート 検証・大崎事件(26)

西日本新聞 社会面

 腰を据え、大崎事件の取材を始めたのは昨年9月。鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部の再審開始決定を取り消した昨年6月の最高裁決定(小池裕裁判長)を受け、元東京高裁裁判長が書かれた評論を目にしたのがきっかけだった。

 その人、門野博氏は司法の最高機関の判断を痛烈に批判していた。「疑問が山積みの供述を全面的に信じるとして、(中略)そこから論を進めた本決定は致命的な誤りを犯した」「最高裁判事は、職権判断を行うと言いながら、どれだけ記録を読まれたのか。しっかり読まれたとすれば、このような不条理な決定でよしとされるはずはない」

 ここまで書いて大丈夫なのか心配になったほどだが、指摘の正しさはすぐに分かった。

 10年間服役した原口アヤ子さん(92)が第1次再審請求をしたのは1995年。確定審、再審請求審を合わせ、40年間で12の裁判体が審理した。判決文や決定文に名を連ねた裁判官だけで延べ43人に上る。

 この間、積み上げられた裁判記録や捜査資料は膨大だ。裁判員になったつもりで記録を読み込み、関係者を訪ねた。多くの方が世を去っており、流れた歳月の長さを思い知った。結果は、連載で紹介した通りだ。

 「共犯者」とされた親族3人が自白し、それを裏付ける法医学鑑定があった確定審段階なら、有罪判断もありえるだろう。だが、服役中から3人とも無罪主張に転じた。法医学鑑定の信用性は崩れ、知的障害がある3人への自白の強要や、事故死を全く想定しない捜査だった可能性も判明した。そして何より、想像を絶する彼らの事件後の人生-。私が裁判員なら、とても有罪判断などできない。わずか半年の取材で何が分かるかと言われるかもしれないが、供述だけに頼るこの事件の証拠はそれほどに脆弱(ぜいじゃく)なのだ。

 最高裁は「地裁や高裁の再審開始決定を取り消さなければ、著しく正義に反する」として、裁判官5人の全員一致で再審請求を退けた。食い違いが甚だしいIさんとTさんの供述を「相互に支え合っている」と言い、親族3人の自白も「相互に支え合っている」と評価。そう見えるのは、自白内容が矛盾しないよう取調官が誘導・強要したからではないのか。訳の分からない事実認定で、40年に及ぶアヤ子さんの冤罪(えんざい)主張を退けた理由は何なのか。

 地裁と高裁で再審開始決定が続き、その過程で、検察による「証拠隠し」や、検察官抗告がもたらす審理の長期化などの問題点が表面化。日弁連などが再審法改正に向けた動きを強めていた。それを阻むための決定だったのではないか。そう考えるのは、深読みのしすぎだろうか。

 30日に申し立てが予定される第4次請求を担う鹿児島地裁には、法と証拠と良心のみに従い、審理に当たってほしい。最高裁の権威に縛られることなく、真実を追求してもらいたい。

 今回、事務所の赤字もいとわず手弁当でアヤ子さんを支援する弁護士の存在を知った。一方で、私は当時の警察幹部や捜査員からは話を聞けておらず、この不公平は認めざるを得ない。大崎事件の審理は続く。話を聞く努力を続けたい。 =おわり

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