「人民は弱し 官吏は強し」…

西日本新聞 オピニオン面

「人民は弱し 官吏は強し」。星新一さんが著した父、星一(はじめ)の伝記だ。米国帰りの一は製薬会社を創業し、日本で初めてモルヒネの製造に成功するなど事業を大きく発展させた

▼一方で、米国流の自由な発想と行動力は保身を第一とする官僚に憎まれる。やがて一と親しかった後藤新平の政敵加藤高明が首相に就任。官僚は政権の意向を踏まえ、法令を曲げてまで一をつぶそうとする

▼こんな描写がある。<衛生局長も(略)星に憎しみを持っているわけではない。だが、この椅子についたからには、周囲からの力により、気ちがいじみたこんな応答をしなければならなくなる。悪魔ののろいのこもった椅子があるとすれば、それはこれかもしれない>

▼戦前の話と言っていられない。今どきは「高級官吏は強し」。森友学園問題を担当し、自殺した財務省近畿財務局の職員が手記を残していた。理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)氏の指示で決裁文書の改ざんを強制された、と。遺族は国と佐川氏に損害賠償を求める訴訟を起こした

安倍晋三首相と昭恵夫人の関与を隠すため、法をゆがめ、部下に死を選ばせたのだとしたら、佐川氏が座ったのは、のろいの椅子か。椅子に忖度(そんたく)というのろいをかけた悪魔がいるとすれば、誰か

▼職員は仕事に誇りを持ち、周囲に「僕の契約相手は国民です」と語っていたという。すべてを明らかにするしか、その犠牲に報いるすべはない。

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