大雨被害から7カ月「何とか作品を」 佐賀・大町町の陶房再開へ

西日本新聞 佐賀版 河野 潤一郎

 昨年8月末の記録的大雨から28日で7カ月。鉄工所工場から流出した油混じりの水に漬かった佐賀県大町町福母下潟地区の陶芸家福田知太(ともた)さん(62)は、陶房が水没し、機械類は油被害もあって使用できなくなった。廃業も考えたが、逆境を支えたのは客の励ましだった。「まだ先は見えないが、何とか作品を届けたい」。生まれ育った地での再起に向け決意を新たにしている。

 福田さんは20代半ばから5年ほど有田町の有田焼窯元で絵付け職人として働いた。退職後、絵付け以外の技術を独学で学び、約30年前、地元に帰って「聖山(ひじりやま)陶房」を開いた。町を象徴する山の聖岳から名付けた。白磁に青で絵付けする食器は「17世紀ごろの有田焼を再現している」という。

 昨年8月28日、猛烈な雨が襲い、陶房と隣接する自宅には油が浮いた水が流入、2メートル近く漬かった。妻の美由紀さんや長女と自宅からボートで避難し、その後は避難所暮らしに。1週間ほどして水が引いた陶房を見に行き、がくぜんとした。焼き物、絵の具、薬品を保管する冷蔵庫…。あらゆる物が散乱し、あたり一面に油が付着していた。素焼き前の作品は、水で溶けていた。

 二つの窯やろくろは水没して役に立たない。洗っても油が取れない作品、陶土、30種類の上薬も廃棄することに。「手が付けられない。もう辞めよう」。気力がなくなり、体重も8キロ落ちた。そんな福田さんを、個展で出会ったり、会員制交流サイト(SNS)でつながったりする客が励ました。「いつまでかかってもいいから、作品を待ってます」

 感謝とうれしさで胸がいっぱいになった。「あと10年、15年続けられるか分からんが、この仕事しかできん。頑張らんと」。ろくろは客から安く譲り受けた。中古の電気窯を買い、成形から素焼きまではできるようになった。4月上旬には本焼きに使うガス窯も届く予定だ。

 鉄工所から一定の補償はあるが、仕事に使う機械類の購入や材料費など約500万円を自費でまかなわねばならない。それでも、奮い立つことを決めた。町内でただ一つの窯元。影になり日向になり、支えてくれた古里への愛着も口にする。「地域の人たちの笑顔が見たい」。新たな作品にも、挑戦するつもりだ。 (河野潤一郎)

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