息を止め、駐車場の車内で診察…医療現場の苦労

西日本新聞 筑豊版 丸田 みずほ

 福岡県筑豊地区でも新型コロナウイルスの感染者が確認された。市民の命を守る医療の現場では、医師や看護師たちが、できる限りの防御策を講じ、ときに戸惑いを感じながら患者の診察に当たっている。筑豊のある開業医を訪ね、取材した。

 手袋とマスクを着用した看護師が向かったのは、待合室ではなく医院の裏にある駐車場だった。止まっていた車の中には、前日から熱があるという10代の女性とその母親がいた。「他に症状はありますか」「ここ1カ月、国内外を問わず旅行や買い物に出掛けましたか」。看護師は、車の窓を2~3センチ開けてもらい、少し離れた場所から大きめの声で問診を始めた。検温すると、39・4度の熱があった。

 この医院では、熱やせきなどちょっとした風邪の症状でも、車内から一度電話してもらい、看護師が駐車場で問診する。その後、医師と看護師は手袋とマスクに加え、使い捨てのガウン姿で診察に向かう。「医院には高齢者も来る。交わらなければ、感染リスクを下げられる」(医師)

 女性は熱のほかに、倦怠感や頭痛、せきの症状があった。看護師は処置に必要なもの一式が入った箱を手に、車から約3メートル離れた場所に待機。医師は車のドアを開け、息を止めて胸の音を聞いた。ドアを開けるのはこの時だけで、インフルエンザの検査も患者の正面ではなく、窓から手を入れて横から行った。

 女性の診断はインフルエンザだった。しかし、医師は女性にこう伝えた。「今はコロナとの併発もあり得る。5日間で症状が改善したとしても、念のためにもう一度来てください」

保健所の対応に疑問

 こうした車内での診察は、中国湖北省武漢市で感染が拡大し始めた1月下旬ごろに始めた。医師は「正直に言って普通の風邪とコロナの区別は難しい」と明かす。感染を疑う目安は、せきやたん、息苦しさに加え、一度下がった熱が再び出た場合という。

 2月下旬、40度の熱がある60代男性が訪れた。インフルエンザの陽性反応が出たため、薬を処方。5日後には、ある程度改善したが、その2日後に再び発熱し、受診した。肺の音に異常があり、肺炎の疑いがあったためPCR検査が必要と判断し、保健所に連絡。すると最初は「海外渡航歴がないなら大丈夫だと思う」と告げられた。「私は医師として判断した。あなたは責任を持って言っているのか」。医師は、担当者の対応に疑問を抱き、こう切り返した。

 医師は「コロナはなるべく早期に発見、治療することが大切」といい、症状が改善せず再受診する患者に対しては「感染を疑うべきだ」と考える。確かに、この当時の検査には流行地域への渡航歴や感染者との濃厚接触などの条件があったが、「それに忠実すぎるのはどうなのか。中には、治ったと思って出歩いてしまう人もいるのに」と複雑だった心境を語った。

初診の医師に相談を

 全国では高熱やせきが続いているにもかかわらず、医療機関に診察を断られたり、保健所への相談に至らなかったりするなど「たらい回し」状態となり、検査や適切な治療が遅れたケースもあった。こうした事態を避けるため、この医院では、熱やせき、息苦しさを訴えた患者に受診から数日後、電話をして症状を確認することがある。「症状がよくなったと聞けば、心から安心する」(医師)

 医師は、症状が改善しない場合でも病院を転々とせず「カルテの記録をたどるために、初診の先生に見せてほしい」と呼び掛ける。熱があると、数日前の症状でも本人は思い出せない可能性があるからだ。

 医師は「とにかく患者を助けるのがこの仕事。私たちも感染のリスクは絶対にあるが、できるだけの防御をし、責任を持って診察したい」と語った。 (丸田みずほ)

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