学生服にネーム刺しゅう必要? 「不審者に知られる」不安も

西日本新聞 社会面 山下 真

識者「慣例にとらわれず議論を」

 入学シーズンが迫る中、長男が今春、中学生になるという大分県中津市の40代女性から戸惑いの声が特命取材班に届いた。「中学校の学生服は胸元にネーム刺しゅうするルール。校外で不審者に名前を把握されないか、心配です」。小学校では防犯上の理由から名札を校内で着け、下校時には教室に置いて帰るよう指導されていたというが-。

 女性によると、指定の学生服販売店に行くと、中学校では上着や開襟シャツの胸ポケットに校名と名字を刺しゅうするルールだと伝えられた。学校に確かめると、事情がある場合は着脱できる名札でもいいが「特例」と言われたという。女性は「うちだけ特別扱いだと、いじめにつながりかねない」と困惑する。

 なぜ、ネーム刺しゅうなのか。中学校の教頭は取材に「中学校と学生服販売店が集まる会議で決まった。他の学校と同じように対応している」と説明した。

 市教育委員会によると、毎年秋、市内10の中学校の教諭や販売店が集まり、学生服の形状や刺しゅうの色、位置を検討する。山あいの1校を除く9校で、名前を刺しゅうすることが決まっているという。

 「先生と生徒のコミュニケーションや、事故時に素早く対応するために刺しゅうが必要。最終的には校長が決めます」と市教委。刺しゅうは三十数年前から慣例で続いているようだ。

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 かつては制服など子どもの所持品に記名するケースは珍しくなかったが、近年は見直す動きが広がっている。きっかけは6年前に起きた誘拐事件だ。

 埼玉県朝霞市で2014年、中学1年の少女が誘拐され、2年間監禁された。逮捕された男は下校中の少女を連れ去る際、フルネームで名前を呼んで車に乗せたという。調べに対し「少女宅の玄関前にあった傘に書かれていた名前を確認した」と話した。

 「目立つ場所に記名すれば、不審者に名前を知られるリスクがある」。防犯に詳しいセコムIS研究所(東京)の舟生岳夫主務研究員は警鐘を鳴らす。不審者は名前を呼ぶことで子どもの警戒心を解き、連れ去ろうとする事例が目立つ。舟生さんは通学帽や手提げ袋、靴など所持品全般について、見えにくい場所への記名を呼び掛けている。

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 一方、記名の刺しゅうを別の観点から捉える意見もある。

 静岡市では16年4月、中学校の学生服に名札を縫い付けるルールに対し、市民から「個人情報保護の観点から心配だ」という声が寄せられた。市教委が再検討を呼び掛け、多くの学校が着脱できるプレートに変更する中、縫い付けを継続する学校もあった。校長は「登下校の際、地域の住民が親しみを込めて生徒の名前を呼ぶことがある。保護者と議論し、縫い付けを続けることになった」と言う。

 中学生が会員制交流サイト(SNS)で知り合った他人に、自分からついていく事例もある。福岡大の大上渉教授(犯罪心理学)は「防犯対策を考えるなら、ネットのリテラシー教育や地域の見守り態勢の確保も欠かせない。刺しゅうだけでなく、総合的に考える必要がある」。

 関西学院大の桜井智恵子教授(教育社会学)は「社会情勢の変化とともに、個人情報の扱いや防犯意識は変化している。校則や慣例にとらわれず、柔軟に議論する姿勢が求められているのでは」と語った。 (山下真)

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