「俺のことが好きなんだよ」柳家喜多八さん、イルカの芸にドヤ笑顔

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(87)

 私が主宰する「佐世保かっちぇて落語会」と「信州ずくだせ落語会」に出演してもらった柳家喜多八さんは、意外なことに学習院大卒。それゆえに「柳之宮喜多八殿下」と呼ばれ、得意の持ちネタは「周りはみんな、でんか、でんかって言うけど、俺はオール電化か!」なんてね。

 「殿下」とは高貴な愛称ですが、27歳で柳家小三治さん(人間国宝)に弟子入りし、真打ちになったのは43歳。遅咲きの苦労人です。

 「清く けだるく 美しく」をモットーにしている師匠らしく、高座に上がるときはなんだかだるそうですが、ネタが進むにつれて熱を帯び、人情話でほろりとさせ、滑稽話で大いに笑わせます。

 入船亭扇遊さん、瀧川鯉昇(たきがわりしょう)さんとの「睦(むつみ)会」や柳家喬太郎さん、三遊亭歌武蔵さんとの「落語教育委員会」。こうした三人会で芸を磨き合っていました。おはこは「小言念仏」や「だくだく」。

 「かっちぇて」で印象的だったネタは「お直し」。日銭欲しさに、亭主が女房に最下層の女郎部屋で客を取らせる江戸の郭噺(くるわばなし)です。刺激が強い内容で、子どもや落語の初心者が多い佐世保には向いていないように思いましたが、どんな反応を示すか、観客のレベルを試してみるような、攻める落語家でしたね。

 喜多八さんは佐世保に来るたび、私の故郷を気に入ってくれました。ポロシャツにサンダル履きの普段着でぶらぶら歩き回り、戸尾市場あたりの散策を楽しむと、珍しそうに「防空壕(ごう)の市場があったよ」と話していました。

 2012年6月。喜多八・林家正蔵二人会の翌日、私はドライバー兼ガイドで観光案内。九十九島水族館「海きらら」があるパールシーリゾートを訪ねました。イワシの大群の水槽に2人とも目を奪われ、しばし見入っていました。東京での疲れを癒やすかのように。

 イルカのショーも見学しました。イルカが観客席にボールをポーンと返す芸があるのですが、なんと2度も3度も、喜多八さんだけにボールを返すんですよ、イルカが。渋みのある顔が似合う師匠も、このときばかりは「こいつ、俺のことが好きなんだよ」とボールを手に自慢気なドヤ笑顔。そのとき飼育員が一言。

 「イルカは疲れている人が分かるんです」

 イルカにセラピーされたようで、虚弱体質ネタを知ってる私たちは大爆笑でしたが…。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年09月28日時点のものです

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