落語会の終演後、訪ねてきた見知らぬ男 殺気を感じ身構えると…

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(98)

 その男性と初めて会ったのは、6年前の6月。6回目の「佐世保かっちぇて落語会」の終演後でした。立川志の輔独演会で、志の輔さんは新作落語「親の顔」と古典落語「新・八五郎出世」の二席を熱演してくれました。

 「迎え手よりも送り手の多い噺家(はなしか)になれ」という言葉があります。迎え手は登場したときの拍手で、送り手は退場するときの拍手。つまり、お客さまがどれだけ満足したかのバロメーターです。テレビなどで有名だと迎え手が多いのは当然ですが、送り手が少ない噺家もいます。さすがに志の輔さんは違っていました。600人のお客さまはガッテン、ガッテン、ガッテン…と大満足のボタンを押してくれました。

 終演後の楽屋に、見知らぬ男性が私を訪ねてきました。中肉中背ながらも武闘家のような雰囲気があり、妙に緊張して思い詰めている様子。殺気を感じて私が身構えたそのとき、男性の右手が動きました。正拳突きか! 違いました。握手を求めてきたのです。

 男性の名は鴨川純一郎。佐世保市立清水中の校長先生でした。教育者の立場からでしょう、前座を務めた小中学生の落語っ子たちに感動してくれたのです。以来、鴨川さんは落語会の常連になり、ある日「うちの生徒に講演を」と依頼を受けました。私が日頃から公言している「笑いは人間関係に大事な潤滑油」に共感してくれたのです。

 佐世保では2004年に小学6年の女児による同級生殺害事件が起き、5年前には高1女子生徒による同級生殺害事件。そのことで先生たちが悩んでいることを知っていましたから、少しでも手伝えるならと引き受けました。

 とはいえ、講演だけでは長年お笑いに携わった放送作家としては能がない。私は実践派。講演とともに、生徒に「笑いの表現」としてコントをさせたいと提案しました。希望する生徒を学校が募り、手を挙げた2人の台本をこしらえ、講演1カ月前から練習を積んで本番を迎えました。「まさかあの2人がコントを」と他の生徒や先生たちは笑顔で驚きましたが、迎え手も送り手も多い出来でしたね。

 その後、長崎県教育庁高校教育課が主催する「人生の達人セミナー」という、ちょっぴり恥ずかしいタイトルで年に数校の講演を依頼されていますが、可能な限り生徒にコントを教えています。で、あるとき、2人の校長先生が-。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年10月11日時点のものです

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