“職質のプロ”の忘れられない事件…匠の技と思いに迫った

西日本新聞 社会面 古川 大二 小川 勝也

 こんにちは、話を聞かせてもらっていいですか-。事件解決のきっかけにもなる職務質問は、警察官の基本とも言われる。福岡県警教養課の山下眞司警視(58)は九州で唯一、職質のプロとして警察庁広域技能指導官に指定されている。殺人事件の容疑者を職質で逮捕したこともある山下さん。苦情を恐れて職質に二の足を踏む若手に対し危機感を抱く。匠(たくみ)の「技」と「思い」に迫る。

 昨年11月の未明。JR博多駅付近で、ナンバー灯が切れた車が走っていた。パトカーで巡回中だった自動車警ら隊の尾崎清光警部補(38)は車とすれ違った一瞬を見逃さなかった。車を停止させ、同乗の松村真一巡査長(33)が運転していた男に声を掛けた。

 男は目も合わさず、バッグを探るも運転免許証を出そうとしない。「飲酒運転ではないが、様子がおかしい」と所持品を検査。バッグから覚醒剤と注射器が見つかった。男は同県大川市立中の教諭(55)=懲戒免職=で覚せい剤取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕した。

 「不審者を探すというより、不審者かどうかを確かめるために積極的に声を掛けることが大切」と山下さんは説く。

 山下さんが職質の奥深さを知ったのは、40歳で自動車警ら隊に配属された時だった。パトカーで先輩とパトロールし、「運転には必ず心の動きが出る」と知った。パトカーを見て急に減速したり、方向転換したり…。

 忘れられない事件がある。2007年11月の未明、同県大野城市で若手とパトカーでパトロール中、1台の車が前方で突然停止した。誰も降りず動きもない。いったん通り過ぎ、振り返ると車はUターンした。

 猛追すると、車は時に歩道を爆走しながらインターネットカフェの駐車場へ。

 「パン-」。運転していた男は職質中に拳銃を1発発射し、銃刀法違反容疑で現行犯逮捕した。佐賀県武雄市で発生した人違い殺人の容疑者で行方を追っていた暴力団幹部だった。

 不自然な行動の裏には何かある-。「殺人犯とは思わなかったが、直感や疑問にこだわったのが良かった」と振り返る。

   ◇    ◇ 

 「技術は現場で先輩を見て覚えろ」。かつてこう指導された山下さんだが、今の若手には通用しない。08年に広域技能指導官に任命され、月1、2回、県内外の警察署などに赴き、声の掛け方や所持品検査の方法など実践的な指導をする。

 「周囲に人がいるのに私だけ職質された」「トイレに行かせてもらえなかった」。福岡県警には職質の苦情が寄せられる。スマートフォンの普及で職質の様子を動画撮影し、会員制交流サイト(SNS)に投稿されることもあるという。

 こうした環境の変化も影響してか、「失敗を恐れて声を掛けることに苦手意識を持つ若手が増えている」と感じる。「職質を拒否されることが失敗ではなく、声を掛けないことが失敗」と口酸っぱく説く。気分を害さないよう相手を気遣いながら適正に実施する、しかない。

 悲惨な事件がどこで起きても、考えることがある。「事件が起きる前に、どこかのタイミングで職質していれば防げたかもしれない。究極の目的は犯罪を未然に防ぐことです」 (古川大二、小川勝也)

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