複雑な出生、愛犬の死… 36回から105回に膨らんだ“わが半生”

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(105)

 とうとう最終回です。6月に始まったこの連載は、当初36回の予定でした。しかし、記憶の地層というのでしょうか。一つの記憶が別の記憶を掘り起こし、話は次から次へと膨らみました。その結果、なんと105回に到達しました。

 記憶の一番深い地層には複雑な出生があり、3人の親たちは引き揚げ後の貧しい暮らしに耐えながら、それぞれの恩讐(おんしゅう)を超え、三位一体で私を育ててくれました。悩み、苦しむことの多い少年時代でしたが、私は3人の慈愛に守られて生きてきたのです。

 成人してからは放送作家として一流の芸能人と仕事をし、調子に乗ってベンツやBMWに乗り、軽井沢でセレブもどきの生活をして愛犬の死を経験しました。さらに調子に乗って、私が檀一雄の「火宅の人」みたいになったことや身内の裏切りなどがあって、妻が口論の末に家出。このあたりに興味のある方は「還暦すぎて、陽はまた昇る」(牧野出版)をお読みください。と、さりげなく自著の宣伝を(笑)。

 で、妻の家出をきっかけに佐世保に帰郷。あんなことやそんなこと、こんなことがあって、66歳。今は充実の日々です。

 東京のテレビ局で台本を書いていた頃は高収入でしたが、佐世保にテレビの仕事はないので収入は激減。ほぼゼロです。それでも今の方が幸せです。青い鳥は故郷にいました。虚飾や見えを捨てると、本当に大切なものが見えてきます。

 中野孝次さんの「清貧の思想」の心境ですが、いかに清貧であっても食べ物は買います。買うとお金が減りますが、入ってこないなら、なるべく出ないようにするしかありません。

 だからスーパーに行くと、私も妻も半額シールを探します。まるで宝探しのように。これが楽しい。半額シールを血眼になって探している60代半ばの男がいたら、それは私です。でも「連載、読んだばい」と声を掛けないでください。恥ずかしいですから。こういう声掛けなら大歓迎です。「今日は納豆が半額ばい」

 サケの遡上(そじょう)ではありませんが、40年ぶりに生まれた所に戻ってきました。妻のゆかりには、よくぞ軽井沢から佐世保に家出してくれたと感謝しています。

 読者の皆さんにも、有名ではない私ごときの連載にお付き合いいただき、感謝致しております。ありがとうございました。それでは皆さん、さようなら。お元気で。 =おしまい

………………

 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年10月21日時点のものです

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