大きなおにぎり、甘いパンの日々…不満言えない避難所生活者

西日本新聞 くらし面 長谷川 彰

災害時の食を考える(2)

 2016年に起きた熊本地震から4年がたとうとしている。多くの人が長期の避難所生活を余儀なくされ、前回(3月18日付)の紙面で取り上げた、炭水化物の過剰提供といった食の課題が浮かび上がった。改めて振り返り、改善策を考える。

 25年も前に顕在化した問題が、相変わらず眼前に横たわっていた-。熊本地震の際、医療支援で現地入りした神戸大大学院災害・救急医学分野の小谷穣治教授は、1995年に起きた阪神大震災の時の状況を思い起こしたという。

 小谷教授は当時、勤務していた神戸大医学部付属病院に駆けつけ、緊急対応に当たったが、自分たちの食料確保までは手が回らなかった。夕方になって隣の岡山県から、おにぎりとパンの差し入れが届いた。

 「本当にありがたいと感謝した」。翌日も翌々日もおにぎりとパンが届く。やがて強烈な便秘に見舞われて、歯が浮く感覚に襲われた。食物繊維不足など栄養バランスが崩れた上、軟らかい食べ物ばかりだったためではないかと振り返る。

 3日目の夕方にたくあんが届けられた。野菜の漬物で、歯応えもある。「みんなにも大人気で、以後、おなかがすっきりして、浮いていた歯が歯茎に戻ったように思えた」そうだ。

 そんな経験を持つ小谷教授は、熊本地震の発生から約2週間たった4月下旬、久留米大、福岡歯科大の救護班とともに栄養サポートチームとして活動。食を巡る状況を改善するため、避難所2カ所計34人と、高齢者療養施設(個人宅を含む)6カ所計12人に、食事の現状や不満、要望などを聞き取り調査した。

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 結果は、避難所の方で多くの課題が見つかった。食事の量が増え、体重も増えた人の割合が高く、便秘を訴える人が目立った。

 不満で最も多かったのは「朝のパンが甘過ぎて嫌」「ご飯の方がいい」。次いで「おにぎりが大きい」。さらに「量が少ない」「味が濃い」「レトルト食品が多い」「カロリーが高過ぎる」「カップ麺が多い」「お菓子が多く、子どもがつい食べ過ぎている」「テーブルで食べたい」などと続いた。「不満はない」との回答は2人だった。

 小谷教授は「被災した直後は食料の配給があるだけで感謝するが、2週間たっても内容が変わらなければさすがに受け入れがたくなり、不満が出てくる」と指摘。パンについては菓子パンが多く、中には賞味期限間際の物も散見され、長期避難が視野に入ってきた時期の食事としては疑問も生じた。

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 その一方、県内の療養施設の方は食事量の変化は少なく、内容にも「不満はない」の声が大半。消化器症状は多岐にわたったが、これは持病によると考えられるという。

 遠隔地の同種施設から食料支援を受けたケースがほとんどで、農家と連携して野菜も豊富に提供されていた。送られてきたパンも甘さを抑えた物だった。避難所に一時身を寄せた入所者からは「天国と地獄」との声も聞かれたという。

 「災害発生直後の数日間は、とりあえず届けやすい炭水化物主体の配給もやむを得ないし、被災者も『ぜいたくは言えない』と納得するもの」と小谷教授。ただ、避難所生活が長引きそうであれば、「早い段階での被災者のニーズ把握が重要」と指摘する。

 東日本大震災の際に栄養サポートチームとして活動した時も、昼間の炊き出しに来ていた自衛隊員に野菜メニューの希望が多いことを伝え、トマトやアセロラジュースの配布など一部改善につながったという。

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 小谷教授は「差し入れする人たちの多くは、善意であっても、避難者のニーズまであまり深く考えず、差し入れをしたことで満足してしまうのでは」と疑問を呈し、療養施設のケースは「差し入れする人々は同種施設なので、わが身に置き換えてニーズを理解していることの表れ」と考察。

 災害時に指定避難所を運営する自治体や、被災地外から支援物資を送る側に対して「こうした実態を認識し、いざという時に的確に対応できるよう備えておくべきだ」と提言する。(特別編集委員・長谷川彰)

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