【DC街角ストーリー】楽観論が急変「新常態」へ

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 週末、ワシントン近郊の自宅近くで歩道を歩いていると、前方から来た初老の男性がすれ違う手前で、わざわざ車道に降りて通り過ぎていった。新型コロナウイルスの感染拡大が続く米国では今、他人との距離を1・8メートル以上取るのが新常識。視線を合わせると優しげな笑みを返してきたので、アジア人への差別行為ではないと思うが、住民は明らかにピリピリしている。

 前回、このコラムを書いた半月ほど前には感染が既に深刻化していたが、ここまでの緊張感はなかった。今、状況は一変。スーパーには入店規制がかかり、卵などが品切れのこともある。多くが休業する中、営業を続けるレストランも大半が開店時間を短縮し、持ち帰りだけの対応だ。

 地下鉄の最寄り駅が閉鎖されたため支局への通勤は極力避け、自宅を拠点に仕事をしている。住民に外出自粛が要請されても記者の活動は制限されていないが、取材先がほとんど会ってくれず電話やメールでの取材が頼り。ただメールを出しても返信がないことが多い。特に医療関係者や失業者は「取材どころではない」という心境なのだろう。

 見た目で中国人と思われるのだろうが、通行人から呼び止められ怒鳴られたり、すれ違いざまに小声で何か言われたりして正直、怖い。外出時は日本人と分かる記者証を首から下げるようにした。

     ☆   ☆

 「前向きに行こう」。近所の公園内の歩道には、こんなメッセージがチョークで書き残され、危機を何とか耐え忍ぼうという街の雰囲気を感じる。とはいえ4千人を超えた国内の死者について、政府は「10万~24万人」との桁違いの見通しを示し、異常事態の長期化への不安が静まる気配は全くない。これを機に、在宅勤務などが社会の「ニューノーマル」(新常態)になるとの見方すら広がる。

 そんな中、どうすれば感染拡大を阻止できるかが世間の関心事だが、報道では検査を徹底した韓国などの取り組みが「成功例」として紹介され始めた。一方、感染者も死者数も米国よりはるかに少ない日本を称賛する記事は、私の知る限り見たことがない。

 九州でも福岡、熊本県で外出自粛要請が出るなど警戒が広がる半面、「日本は大丈夫」という安心感があるとも聞くが、ワシントン近郊でも当初は根拠に乏しい楽観論があった。マスク姿の住民は今も少ない。しかし、不要不急の外出は避け、手洗いを徹底するなどの対策が浸透しても犠牲者は増え、私が住む州では6月10日まで事実上の外出禁止令が出た。こんな事態に陥るとは想像もつかなかった。

 過剰な警戒を促す意図はないが、海の向こうの現実を対岸の火事と見てほしくない。 (ワシントン田中伸幸)

 =随時掲載

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