「銀河の歴史」が再び

西日本新聞 オピニオン面 上別府 保慶

 日本という国の外交下手について「第三極というものを考えないからだ」と説くのは、歴史学者の本郷和人さん(59)だ。テレビでおなじみの東京大史料編纂所の教授。本郷さんは自著の「考える日本史」(河出新書)で、幕末の薩摩藩を例に、この第三極について熱弁を振るっている。

 「薩摩藩は、ときに長州藩を踏み台にし、ときには会津藩と手を結び、後ろ暗い手さえ使って最終的に倒幕を成し遂げる。(中略)イギリスとの間で、薩英戦争を戦いながら、その当のイギリスと手を組むなどという、外交的離れ業も演じています」

 本郷さんはそんな外交能力が、他藩のように幕府との関係だけにとどまらず、中国と交易する琉球を支配していた「三極」の経験によって磨かれたとする。

 そして戦後の日本。何事も米国の動きに追従してきたが、中国が脅威となった今は、長く敵視してきたロシアとも仲良くして中国をけん制する「外交的選択肢もある」と説くのである。そもそも日本外交が柔軟さを欠くのは、紅白歌合戦のような「赤が勝つか白が勝つかという単純化された世界観がよくない」とも。

 この話、熊本出身の田中芳樹さん(67)が書いたSF小説「銀河英雄伝説」が再び新作アニメになり、6日からNHKのEテレで地上波初放送されるのを紹介したくて書き始めた。

 「銀河英雄伝説」は未来の人類が三極に分かれて争う“宇宙の三国志”だ。大長編にもかかわらず世界史を巧みに投影した物語は内外のファンを魅了し、中国でも映画化の動きがある。

 私が20年前に会話を習った台湾人は、最初のアニメ化作品を見て九州大留学を決めた青年だった。彼が中国を仮想敵とする台湾軍の兵役を終えた後のことで、独裁でも民主でも、未来を政治家任せにする危うさを感じ、この作品を生んだ日本で生きる道を選んだ。彼は「ものの見方を変えられました」と何度も言った。

 「銀河英雄伝説」は第1巻が出た1982年以来、歴史や政治に関心が薄い人々も含め、若者の思考を大いに刺激してきた名著だ。人物設定も魅力に富み、言葉も深い。第3巻ではある政治家がこう語る。

 「目上? 政治家とは、それほどえらいものかね。私たちは社会の生産に何ら寄与しているわけではない。市民が納める税金を、公正にかつ効率よく再配分するという任務を託されて、給料をもらってそれに従事しているだけの存在だ。私たちはよく言っても社会機構の寄生虫でしかないのさ。それがえらそうに見えるのは、宣伝の結果としての錯覚にすぎんよ」

 新作アニメ、選挙権を持った若い方々もぜひと願う。 (特別編集委員・上別府保慶)

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